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【後編】エクソソーム実験の基本

3.エクソソームの性状および機能解析

1)エクソソーム回収後に調べる基本情報

吉岡先生:得られたエクソソームを目的の解析に用いる前に、タンパク質量(濃度)と粒子数を把握することで解析が行いやすくなります(情報として量を知ることは重要です)。タンパク質量の測定には、一般的な方法を用いることも可能ですが、エクソソーム溶液のタンパク質濃度は低いことが多いので、低濃度でも測定が可能なマイクロBCA法などの使用が推奨されます。

一方、粒子数の測定には、その手軽さおよび少量の試料で測定が可能なことから、動的光散乱装置を用いることが増えてきました。この装置は溶液中に存在するエクソソーム以外の微粒子も区別せずに検出しますが、溶液中の粒子径も同時に測定します。回収されたEVsの大半が100 nmを中心とした分布を示していれば、エクソソームのサイズに該当していることが確認できます。

タンパク質濃度と粒子数は現在、例えば、エクソソームをin vitroで細胞に添加する実験やin vivoでマウス尾静脈に投与する実験の場合などで、エクソソーム量の指標として用いられています。これまでの経験より、培養細胞株が異なっても、細胞株ごとに回収されるエクソソーム標品の粒子数はタンパク質濃度と直線的相関を示すので、エクソソームの量を評価する上で粒子数の情報は有用です。

2)エクソソーム研究のための基準物質(インターナルコントロール)はあるか?

タンパク質

生化学的な実験においても、エクソソームの性質や作用を解析する際には、タンパク質濃度と粒子数をエクソソームの量を示すための指標として用います。ただし、この2つの値は、エクソソームの絶対量を表すものではありません。現在のところ、すべてのエクソソームに発現し、放出元の細胞種やその状態・条件にかかわらず、発現量が一定に保たれる基準物質※6は見つかっていませんが、多くのエクソソームに存在が認められているテトラスパニンタンパク質※7のCD9、CD63およびCD81、エンドソーム輸送選別複合体因子(ESCRT:Alix,TSG101)、heat shock proteins(Hsp60, Hsp70, Hsp90)などが便宜的にマーカー分子として位置付けられています。そのため、エクソソームに関する研究論文では、これらのマーカー分子のうち数個を同条件で解析して提示することが慣例となっています。例えば、比較実験で、タンパク質loading量を揃えて行ったWBの結果を示した場合、マーカータンパク質の発現量に対して他のタンパク質の相対的な発現量を評価することが可能になります。

エクソソームの絶対量を正確に示してくれる基準物質の解明・選定は、今後エクソソームの臨床への応用の際、その投与量を設定する上で特に必要となります。

miRNA

診断目的で使うエクソソームのインターナルコントロールについては、解析回数を重ねて発現量があまり変動しないと確認した特定のmiRNAsを、エクソソームの量を表すための基準物質として位置付けることが考えられます。最近よく目にするのは、アレイ手法などで相当の数、何百検体を解析してその中で発現量のばらつきが少ないmiRNAなどを特定して、インターナルコントロールの候補として選出することです。つまり、自分たちの実験プラットフォームで特定のmiRNAsが変動しないことを証明して論文などに示して、それらmiRNAsを例えばリキッドバイオプシーの指標として使用することもできます。

※6 基準物質:試料の量の標準化を可能にするタンパク質または遺伝子のことで、細胞生物学ではGAPDHやアクチンに代表されるようなハウスキーピング分子が用いられています。別名、インターナルコントロールともいいます。

※7 テトラスパニン(Tetraspanins):膜4回貫通型の膜タンパク質の総称で、細胞膜上に存在する細胞表面受容体の役割を担います。テトラスパニンは細胞接着因子であるインテグリンや増殖因子受容体などと複合体を形成してそれらの機能を修飾することにより、細胞運動や細胞の活性化にかかわります。テトラスパニンのうち、CD9、CD63、CD81はエクソソームの膜に発現するトップ100のタンパク質に含まれています。

3)回収後のエクソソームの機能解析

エクソソームのin vitro投与実験:培養細胞

エクソソームの機能を調べるために、よく培養細胞を用いた投与実験が行われますが、その際に問題になるのはエクソソーム対細胞数の量比を決めることです。上記にもありましたように、エクソソームの絶対量を示す基準物質の同定はなされていないため、タンパク質濃度、粒子数やマーカー分子を指標として用います。もう1つ問題視されるのは、実験で用いたエクソソーム量が、生理的に妥当であるかどうかという点です。これは、ほとんど未解明なことで、in vitroの投与実験では、エクソソームの情報(例えば、どれくらいの培養細胞数を何時間培養した後の上清から由来しているなどの基本情報)および標的細胞の情報(培地の容量、細胞数、処理時間や条件)を提供するようにしています。

エクソソームのin vivo投与実験:動物

エクソソームを動物に投与してその影響を調べる実験では、エクソソームを回収した細胞数から投与量の生理的妥当性をある程度判断することが可能です。例えば、がん細胞107個分の48時間培養上清からエクソソームを回収し、体重20 gのマウス1匹に投与した場合、がん細胞107個を腫瘍の塊に換算すると、ほんの小さな塊と想像でき、細胞として注射するにも問題ない量に相当するといえるでしょう(細胞107個の遠心後のペレットサイズから予想)。この場合、生理的条件としてあり得る投与量と判断できます。もし、投与するエクソソームの量が例えば5 g分の腫瘍に相当するならば、それはマウス1匹に注射しきれないほど多いと考えられます。このような観点からプロトコールを立てることで、生体内で起こり得る現象をみているのかどうかが判断できますし、その視点を持つことが重要です(ただし、生体内の細胞はエクソソームを常に放出しているので一過的に投与した場合とは異なる条件であることを考慮しておくことも必要です)。

ゼータ電位

もう1つ、エクソソームの機能に影響すると考えられているのはゼータ電位です。エクソソームのゼータ電位は、明らかに放出元の細胞によって違います。それは主に膜タンパク質の糖鎖含量や種類によって変動するとされています。糖鎖組成は、がん細胞の細胞膜表面で、がん化に伴って変化することが報告されており、エクソソームの表面においても、それが反映されるといわれています。

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