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【後編】エクソソーム実験の基本

2.生体試料からのエクソソーム回収

吉岡先生:生体試料、特にヒト試料を扱う場合は、培養細胞株を扱う時に比べてより厳重に作業者と研究室の感染防止対策を行うことが必要となります。

1)血液(血清または血漿)

血液は全身の細胞・組織由来のエクソソームを運搬していると考えられ、疾患特異的なエクソソームを解析する上で有用ですが、血清または血漿からのエクソソーム回収は培養上清に比べると一段と難しくなります。特に臨床試料として得られる量が限られていること、そして血清、血漿のどちらを用いても、エクソソーム以外の大量に含まれるタンパク質(アルブミン、IgGs、トランスフェリン)がエクソソームと共沈することが問題になります。そのため、解析の目的によっては超遠心後のエクソソーム溶液の純度を上げるために、もう一段階精製が必要になることもあります。

ヒトの検体を扱う際は、サンプルの状態に注意を払います。健康診断などの採血は常温で保存されるケースが多々あります。その余剰検体を解析する場合、プロテアーゼなどが残っていたりしますので、エクソソーム膜タンパク質もしくはエクソソームそのものの分解などが起こる可能性があり、解析しても何をみているかわからなくなる可能性があります。

動物実験では、採血方法にも注意する必要があります。使用する針の太さ(ゲージ数)については、必要以上に細い針を用いると、採血中のシェアストレス(剪断応力)により溶血が起こりやすいことを経験しています。溶血によって遊離される赤血球の成分は、エクソソームの解析に悪影響を与える恐れがあります。このため、当研究室では例えばマウスの心臓採血には24ゲージ前後の針を用いています。また、血漿を分離する場合には、採血時に用いる抗凝固剤の種類によっては目的とする解析に影響する可能性があるので、その選択にも気を付けます。

国内で販売されている臨床検査キットが主に血清を用いるタイプが多く、最終的にはがんの診断を目指していますので、従来のがんマーカーを比較します。従来のがんマーカーの検査は血清で行っており、同条件で比較するために当研究部門では血漿よりも血清からエクソソームを回収するケースの方が多いです。

2)その他の体液

血液以外にも、エクソソームの回収が可能な生体試料は尿、母乳、唾液など多岐にわたりますが、患者さんから採取する場合には試料量が限られることも珍しくありません。少量の試料からエクソソームを回収する場合、培養上清の場合とは異なり、卓上遠心機のロータや小さい遠心チューブ(図4)を用いることを推奨します。スタートの試料が少ないのに容量の大きい遠心チューブを用いると、洗浄後のPBSの残量が多くなりすぎてエクソソームのペレットが過度に希釈されてしまい、後の解析が難しくなります。少量の試料からのエクソソームの回収は、基本的に「入門編」で述べた注意点が当てはまります。

図4:ペレットダウン超遠心法によるエクソソームの回収 rpm:rotation per min; x g:相対遠心力の単位

尿のエクソソーム量は、尿採取の時間帯や被験者の状態によって、大きく変わります。ヒトの1日の排尿量が約2 Lですが、朝一番の尿とお茶を大量に飲んだ後の尿を比べると、後者が少ないです。採尿する時点で、膀胱に溜まっていた時間やどれだけ濃縮されているかによって回収量が異なります。この点について、尿からのエクソソーム回収量をコントロールするのは難しいです。

その観点から、血液の方が安定したエクソソーム量の回収が見込まれます。もちろん、食事の前後で多少変わると思いますが、体内の血液量がおよそ5 Lに一定に保たれていることを考えると、採れるエクソソーム量のぶれは尿に比べて小さいです。

本記事においては、他の生体試料の個々の回収については割愛しますが、総説など16, 27, 28)を参照してもらえればと思います。試料の特性と解析の目的に合わせて、超遠心法でエクソソームを最初に回収してから、純度を高めるために密度勾配遠心法、免疫沈降法、サイズ排除クロマトグラフィー法などを用いることができます1, 26)。超微量な試料の場合、超遠心法ではなく、免疫沈降、アフィニティーカラムを用いた回収法も使用可能になりました。各種方法にはメリット・デメリットがありますが、試料の量や研究の目的に合わせたエクソソーム回収法を選択することが重要です。

参考文献
1)Beckman Coulter. インタビュー記事「エクソソーム研究における基本と今後の展望」2015
26)吉岡祐亮. In 落谷孝広・吉岡祐亮編 医療を変えるエクソソーム ー生体機能から疾患メカニズム、臨床応用までー 化学同人2018; p.38-42
27)Lane RE et al. Methods Mol Biol. 2017; 1660: 111-130
28)Buschmann D et al. J Extracell Vesicles. 2018; 7(1): 1481321

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