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【後編】エクソソーム実験の基本

2015年に「エクソソーム研究における基本と今後の展望」と題して、国立がん研究センター研究所の落谷先生、吉岡先生にインタビューをさせていただき、4年がたちました。エクソソーム回収法のゴールドスタンダードは現在も超遠心法であり続けているということですが、これからエクソソームの解析を計画されている方、また、既に始めたけれどエクソソームの実験についてコツを知りたいという方に、プロトコールtipsとなる情報を両先生にたくさんご紹介いただきました。

1. 入門編 : 培養上清からエクソソームを回収する際の準備とコツ

吉岡先生:エクソソームの研究を始める方には、プロトコールの習得のために、まずは比較的エクソソームが回収しやすい培養細胞の上清を用いたトレーニングをお勧めしています。それを行うことで、一連の調製法に必要な器具、試薬、機材の配置や時間配分を把握することができ、後々大いに役立ちます。肝心なのは、どのくらいの培養上清(mL数)を用いれば、解析に必要なエクソソーム量(すなわち、totalRNAまたはタンパク量としてのng、μg数)が得られるのかを把握することです。培養上清に対して回収されるエクソソーム量が予測できれば、その後の解析を計画することが可能になります。例えば、実施可能なウェスタンブロッティング(WB)の回数やプロテオーム解析の可否などを判断できます。最初に培養上清を扱うことで、より難しい生体試料のエクソソーム回収手順について、ポイントをつかむことができます。

1)細胞株の選択

エクソソームを分離する際、どんな細胞株を選ぶかがポイントになります。接着細胞、浮遊細胞のどちらでもよいのですが、エクソソームを多く放出するものを使います。一般的に、がん細胞株は正常細胞に比べエクソソームを多く放出します。ただ、一律に高いわけではないため、過去の報告などを参考に※4、適切ながん細胞株を選ぶことが推奨されます。例えば、遺伝子導入に一般的に使われているHEK293細胞などは問題なく実験に用いるだけのエクソソームを放出します。

細胞株の選択基準の1つの目安ですが、培養上清100 mLから得られるエクソソーム量がタンパク質として5~20 μg相当採れれば妥当と考えます※5。例えば、100 mLから10 μgのタンパク質が得られれば、1回のプロテオーム解析に通常求められる50 μgを採るためには、スタート時点の培養上清を5倍(500 mL)に増やせばよいと見積もることができます。遠心操作の実際などを考えると、500 mLまでが無理なく扱える限度量です。もし培養上清100 mLから回収されるエクソソーム量がWBもできないほど少量ならば、細胞株を変えた方がよいと考えます。具体的にいうと、100 mLの培養上清から3 μgしか採れない場合には、細胞株を変更した方がエクソソームの回収だけに労力のほとんどを奪われずに実験をスムーズに行うことができると思います。

※4 細胞株を含めて各種試料からのEVsの収量に関する情報は論文に記載されていないことが多いのですが、少なくともエクソソームが回収・解析された実績のある細胞株の情報については、各種データベース(ExoCarta,Vesiclepedia, EVpedia)のコンテンツ、もしくは試薬メーカーが販売しているがん細胞のエクソソームのスタンダードがどのような細胞株に由来しているのかを参考にすることもできます。

※5 タンパク質やRNA量は測定する機器や試薬によって多少異なるため、この数値はあくまで目安です。

2)培養条件、培養細胞株の最適化

もう一つのポイントは、③細胞培養液中のFBS(ウシ胎児血清)の持ち込みエクソソームによるコンタミを防ぐために、培養上清回収の40~48時間前から無血清培地に交換することです。「40~48時間前」は目安であり、例えば24時間なら無血清条件で形状変化なしに細胞が良好に生きているのであれば、その時点を回収のタイミングにする選択肢もあります。培地交換後の細胞の形状と増殖具合をよく観察し、浮遊細胞(死細胞)の増加や細胞の形状変化がみられれば、無血清条件ではなく、エクソソームを含む細胞外小胞を事前に除いたFBS(EV-depleted FBS)を使用します。これは、市販のもの、あるいはスウィングロータ SW 41 Tiを用いて4℃、35,000 rpm(Rmax:210,000 ×g)、16時間超遠心にかけたFBSの上清を用いるという選択肢があります。

ただし、EV-depleted FBS培地で培養した場合には、微量ではありますがFBSに残存するウシ由来エクソソームも回収されてくるので、その持ち込み量を把握するためのネガティブコントロールを設けることが必要になります。これはすなわち、培養前のEV-depleted FBSを含む培地からもエクソソーム回収の工程を同様に行うことです。

3)エクソソームの回収方法

落谷先生:エクソソームの最も良い回収法についてよく質問をいただきますが、どのような試料(血液、各種体液や細胞の培養上清)からもエクソソームの全体集団を確実に採れる手段として最も普遍的な方法は超遠心法です。少量の試料から得られる回収率にはまだ課題があるかもしれませんが、超遠心法で回収されるエクソソームは、その集団が持つ性質の全体像を保った状態で採れます。現在は超遠心法以外にさまざまなエクソソーム回収方法ができていますが、それぞれに一長一短があるのでその回収原理や選択性の特徴をよく理解した上で用いる必要があります。最初は研究対象のエクソソーム集団の全体像を知るために、超遠心法で偏りなく回収することが推奨されます。

吉岡先生:このため、我々がエクソソームの標準回収法として最も使用しているのはペレットダウン超遠心法です1, 26)(図4)。これは大きく分けると、試料の前処理を含めて3つの段階からなります。①培養上清を注意深く回収し、低速度遠心(4℃、2,000 ×g、10分)にて、遊離細胞(死細胞)などを除去します。②エクソソームが存在するその上清を0.22 μmフィルターに通して大きな粒子や細胞破片を除去し、③その濾液を超遠心にかけます(スウィングロータ[p9 コラム参照]SW 41 Ti、UCチューブ 13.2 mL(製品番号:344059)、ベックマン・コールター社製;4℃、35,000 rpm、Rmax 210,000 ×g、70分)。

図4:ペレットダウン超遠心法によるエクソソームの回収 rpm:rotation per min; x g:相対遠心力の単位

この一連の手順により、エクソソームは遠心チューブの底に目には通常見えないペレットとして回収されます。このペレット中には共沈する試料中のエクソソーム以外の微粒子やタンパク質なども含まれるため、リン酸バッファー(PBS:0.22 μmフィルター濾過済み)による洗浄を行います。まず超遠心後の上清をそっとdecantationで除去した後、エクソソームのペレットをvortexで約2~3秒振とうし、PBSに懸濁してから再度同条件で超遠心にかけます。遠心後、PBSをdecantationで除去し、ペレットの表面や遠心チューブの壁に残存するPBSを用いてvortexで約2~3秒振とうし、エクソソームを懸濁することによりエクソソーム画分が得られます。このエクソソーム画分の液量を知るために、遠心チューブからマイクロチューブなどの保存用の容器に移す際、マイクロピペッターで容量を量っておき、最後にPBSを加えるなどをし、最終的な液量を統一させます。例えば、最終的な液量を100 μLに統一したい場合は、遠心チューブからマイクロチューブに移す際に液量が80 μL(UCチューブ13.2 mLを用いると平均的に約80 μL残る)であるとしたら、不足しているPBS 20 μLを加えます。エクソソーム溶液の保存は4℃で行い、なるべく早く解析に使用します。凍結融解によりエクソソームが壊れるので、凍結融解をしないことが重要です。

エクソソームにはheterogeneityがあるといわれています。このため、落谷先生がいわれたように偏りなく採れる超遠心法による回収を行っていますが、遠心条件によって回収されるエクソソーム画分の集団特性(粒径分布など)が異なることが報告されています。現在、回収時の回転数や遠心時間、またはロータ機種や遠心チューブの種類を世界で統一化しているわけではありません。ただ、少なくとも多施設間の共同研究の場合、エクソソーム回収の超遠心法におけるすべての条件(超遠心機、ロータ機種、遠心チューブ、回転数、時間、温度)を標準化する必要があると考えます。このため、当研究室と共同研究をしている施設にはできるだけ、同じ遠心条件と仕様にしていただいています。こうすることによって、エクソソーム研究データを同条件で比較検討することができます。

参考文献
1)Beckman Coulter. インタビュー記事「エクソソーム研究における基本と今後の展望」2015
26)吉岡祐亮. In 落谷孝広・吉岡祐亮編 医療を変えるエクソソーム ー生体機能から疾患メカニズム、臨床応用までー 化学同人2018; p.38-42

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