| インタビュー

【前編】エクソソーム研究の今と未来

2. エクソソームと疾患: “ 悪役”エクソソーム

落谷先生: エクソソームの脂質二重膜にはタンパク質(糖鎖付きも含む)が存在しており、その内包物にはmRNA(5’キャップからPoly-Aまでの全長)、microRNA(miRNA)といった核酸※3、タンパク質などが含まれます。エクソソームを取り込む受け手側の細胞内で、これら内包物が何らかの情報を伝達することで、遺伝子発現などの細胞機能を調節しています6-8)(図1)。このエクソソームを介した細胞間の情報伝達(クロストーク)は、ホメオスタシスを支えるだけでなく、疾病の発症や進行におけるさまざまな場面でも働くと考えられています。疾病にかかわる悪い作用を持つエクソソームのことを“悪役”エクソソームと呼んでいます。

がん細胞のような異常細胞が出現すると、そのエクソソーム表面の膜タンパク質や糖鎖の組成、および内包物の組成も一変します。つまり、がん細胞は分泌するエクソソームの性質を自らの生存・増幅に有利になるよう変化させることが明らかになってきました2)。近年の研究により、がん細胞のエクソソームは、周囲の正常細胞に対しその防御機能をすり抜けて細胞増殖を促進する遺伝子の水平伝播をします。さらに、このような“悪役”エクソソームは線維芽細胞を活性化して、細胞外マトリックスの分解やがん促進サイトカインの誘導を促進することがわかってきました4)。このような作用の蓄積により、がんの悪性化が進行すると考えられています。これまでに、がんの病態に重要である細胞増殖、血管新生、他組織への浸潤、転移、再発などの各段階にかかわるエクソソーム中の因子が次々と報告されています2, 5)

エクソソームの異常が疾患の病態に関与しているもう1つの例として、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が挙げられます。COPDは2020年には世界の死因の第3位になると予測されており、肺の線維化による肺機能の著しい低下が特徴です。その原因の1つには、気道上皮細胞へのPM2.5やたばこの煙によるストレスが指摘されています。ストレスを受けると気道上皮細胞のエクソソームが変質しますが、その内包物の1つであるmiRNA(miR-210)が有意に増加し、また他7つのmiRNAが低下することが明らかになりました9)。気道上皮細胞が放出するエクソソームは肺の線維芽細胞に取り込まれ、送り込まれたmiR-210はその細胞の筋線維芽細胞への分化を誘導します。その結果、本来の柔軟性が失われ細胞は硬化してしまいます。この変性が蓄積することで気流閉塞が悪化することが予想されます。つまり、エクソソームの変質がCOPDの発症と進展に関与していることが考えられます。

ほかにも、病原体などの異種生物由来の“悪役”エクソソームがあります。その一例として、胃がんの原因であるといわれるヘリコバクター・ピロリ菌由来のエクソソームが挙げられます。ピロリ菌は、エクソソームを放出してホストの胃粘膜上皮細胞やマクロファージに働きかけることによって病原性を発揮することが明らかにされました10, 11)

図1:エクソソームを介した細胞間のクロストーク:放出する側のドナー細胞が自身に有利になるよう、エクソソームを受け手側のレシピエント細胞に送る。

A.エクソソームの構造:小胞の膜はリン脂質二重膜からなり、テトラスパニンなどのタンパク質が存在する。内包物にはタンパク質、核酸(mRNA,miRNA)が含まれる。
「田所弘子. In 落谷孝広・吉岡祐亮編 医療を変えるエクソソーム ー生体機能から疾患メカニズム、臨床応用までー 化学同人 2018; p. 8, 図2.1」より改変(著作権者の承諾を得て、改変・転載)

B.エクソソームの構造:小胞の膜はリン脂質二重膜からなり、テトラスパニンなどのタンパク質が存在する。内包物にはタンパク質、核酸(mRNA,miRNA)が含まれる。
位相差電子顕微鏡によるエクソソームの形態観察。脂肪由来間葉系幹細胞が分泌したエクソソームを超遠心法にて回収後、位相差電子顕微鏡で観察した。スケールバー:100 nm (吉岡先生ご提供)

※3 核酸のうち、DNAがエクソソームの内包物として存在するかどうかについて統一した見解はなく、エクソソームの周りに付着しているだけという報告があります。

参考文献
2)Urabe F et al. Clin Transl Med. 2017; 6(1): 45
5)横井 暁. In 落谷孝広・吉岡祐亮編 医療を変えるエクソソーム ー生体機能から疾患メカニズム 化学同人2018; p.122-134
6) Valadi H et al. Nat Cell Biol. 2007; 9(6): 654–659
7)Skog J et al. Nat Cell Biol. 2008; 10(12): 1470–1476
8)Kosaka N. et al. J Biol Chem. 2010; 285(23): 17442-17452
9)Fujita Y et al. J Extracell Vesicles 2015; 4:28388
10)Shimoda A et al. Sci Rep. 2016; 6: 18346
11)Che Y et al. J Cell Mol Med. 2018; 22(11): 5708-5719

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