| インタビュー

【前編】エクソソーム研究の今と未来

「エクソソーム研究における基本と今後の展望」と題して、国立がん研究センター研究所の落谷先生、吉岡先生にインタビューをさせていただき、2015年にインタビュー記事1)を刊行して4年がたちました。その間、この分野の研究はますます盛んに行われ、良い作用の“ヒーロー”エクソソームの治療への応用、あるいは悪い作用の“悪役”エクソソームのさまざまな疾患・病態への関与について、多くの報告がなされています。そこで、「続編」として、両先生にエクソソーム研究の最前線と今後期待される展開についてお話を伺いました。

1. エクソソームについて:はじめに

落谷先生: 動植物、微生物を問わず生物には、すべての細胞が外に小胞を放出して、血液やその他の体液に乗せて細胞間の情報伝達を行うためのしくみがあります(図1)2)。これら細胞外小胞(extracellular vesicles:EVs)は、脂質二重層の膜によって内包物の核酸やタンパク質を包んだ構造であり、その性質(表面レセプターや内包物組成:cargo)は、放出元の細胞の状態を反映します。EVsは細胞によって、あるいは1つの細胞種に由来したものでも、生化学的、物理学的な性質が異なって、多様性(heterogeneity)に富むといわれています。その多様性の解明も含めて、EVsの全体像については不明な点が多く残されています※1。このような状況の中で、一部のEVsががんなどの疾患の病態にかかわっていることがわかってきました。それはEVsのうち、「エクソソーム」と命名される粒径約100 nmを中心としたもので、がん細胞が体内で出現したり、転移能や薬剤抵抗性を獲得したりする時に、非常に重要な役割を果たすことが明らかになってきました4, 5)

EVsの研究は活発に行われており、生命科学の領域でも目覚ましく進歩している分野の1つです※2。2017年の論文報告数は、近年とりわけ話題になっているゲノム編集に匹敵していました。これは、エクソソームが恒常性の維持(ホメオスタシス)のみならず、さまざまな疾患の発症・増悪に影響することが知られるようになり、エクソソーム研究が取り扱うテーマが格段に広がったためと考えられます。がんのほか、アルツハイマー病などの神経変性疾患や糖尿病などの生活習慣病を含むさまざまな疾患において、発症・増悪機序に対するエクソソームの役割、さらには診断・治療に対するエクソソームの価値が見いだされつつあります。この流れは、市場の動向からも読み取ることが可能であり、ありがたいことに、近年海外ではエクソソーム研究に多くの資金が集まるようになってきました。日本でもその流れが感じ取れるようになり、エクソソーム研究に市場の期待が注がれています。この動向は、将来は多くの患者さんを救えるような治療に結びつく可能性が評価されているためと思います。

図1:エクソソームを介した細胞間のクロストーク:放出する側のドナー細胞が自身に有利になるよう、エクソソームを受け手側のレシピエント細胞に送る。

A.エクソソームの構造:小胞の膜はリン脂質二重膜からなり、テトラスパニンなどのタンパク質が存在する。内包物にはタンパク質、核酸(mRNA,miRNA)が含まれる。
「田所弘子. In 落谷孝広・吉岡祐亮編 医療を変えるエクソソーム ー生体機能から疾患メカニズム、臨床応用までー 化学同人 2018; p. 8, 図2.1」より改変(著作権者の承諾を得て、改変・転載)

B.エクソソームの構造:小胞の膜はリン脂質二重膜からなり、テトラスパニンなどのタンパク質が存在する。内包物にはタンパク質、核酸(mRNA,miRNA)が含まれる。
位相差電子顕微鏡によるエクソソームの形態観察。脂肪由来間葉系幹細胞が分泌したエクソソームを超遠心法にて回収後、位相差電子顕微鏡で観察した。スケールバー:100 nm (吉岡先生ご提供)

※1 細胞外小胞の命名および分類については、その平均粒子サイズの違い、由来する細胞内器官、放出機構の違いなどにより、大きくexosomes(エクソソーム)、microvesiclesおよびapoptotic bodiesの3つに分けられています。エクソソームについては、平均粒径が約100 nmの粒子で、細胞質内のエンドソーム(endosomal compartment)に由来する小胞のことをいいます。上記の命名以外にも、EVsが沈降する遠心力の違いによって、Theryらはsmall EVs(超遠心100,000 ×gペレット画分:この条件ではエクソソームに該当するサイズの粒子が沈降する)、medium EVs(中間速度遠心20,000 ×gペレット)およびlarge EVs(低速度遠心2,000 ×gペレット)という呼び名も提案しています3)

※2 キーワード「extracellular vesicles」を用いたPubMed検索の結果、2017年 は2,095件で、「genome editing」の件数は2,366件でした。

参考文献
1)Beckman Coulter. インタビュー記事「エクソソーム研究における基本と今後の展望」2015
2)Urabe F et al. Clin Transl Med. 2017; 6(1): 45
3)Mateescu B et al. J Extracell Vesicles. 2017; 6(1): 1286095
4)Kosaka N et al. J Clin Invest. 2016; 126(4): 1163-1172
5)横井 暁. In 落谷孝広・吉岡祐亮編 医療を変えるエクソソーム ー生体機能から疾患メカニズム 化学同人2018; p.122-134

1 2 3 4 5 6
東京都江東区有明3-5-7 TOC有明ウエストタワー
© Beckman Coulter, Inc All rights reserved.