エクソソーム研究において研究をリードされている国立がん研究センター研究所 分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野の主任分野長 落谷孝広先生、ならびに研究員 吉岡祐亮先生のお二人に、エクソソームの概要、研究の歴史、および世界と日本での研究の現状を伺いました。

Ⅲ. エクソソーム研究の展望とバイオロジカルツールとしての可能性

Future Direction of Exosome Research : Applicability as a Biological Tool

明らかになってくる「エクソソーム病」とエクソソームの本質への期待

落谷先生:これまで生物学分野の研究においては、ゲノム解析、エピジェネティックな制御による遺伝子発現制御の解析が主流となって、例えばがん細胞での遺伝子変異やヒストンタンパク質・DNAのメチル化制御の異常といった、様々な生命現象が解明されてきました。そして近年では、エクソソームをはじめナノサイズの細胞外小胞による、多領域にわたる生体内制御メカニズムも明らかになってきています。
 エクソソームに関しては、今後、正常細胞のエクソソーム分泌が阻害されたり、エクソソームの質が変化したりすることに起因する「エクソソーム病」の存在が、ますます明らかになってくると考えています。治療に向けてすでに様々な研究が展開されているがん、神経疾患、免疫疾患、といった疾患だけでなく、現段階では疾患の原因やメカニズムが不明で治療が困難と考えられている疾患に対しても、エクソソームの関与が明らかになる場合があるかもしれません。
 今後、エクソソームに関する生理学的機能、分泌・取り込みの基礎的なメカニズムに関する知見といった「本質」を探る研究によって、より重要な知見がもたらされると考えています。

診断ツールとしての展望

吉岡先生:正常細胞、疾患細胞ともに細胞のおかれている環境やストレスを反映して、細胞が自発的にエクソソームを分泌しています。これまで使用されている腫瘍マーカーの一部は、例えばK-Ras、p53の変異検出のように細胞が死滅した後や、細胞から間接的に放出されるものが多く 20)、生体内の正確な状況を反映しているかどうかについては、疑問視されることもありました。そもそも、がん細胞は正常細胞では確認されないような特異的な分子をエクソソームに内包させ、分泌しており 21)、エクソソームは有望な腫瘍マーカーとして期待されています。そのうえ、エクソソームは細胞の状態を即時に、かつ直接的に反映する細胞外小胞であるため、それを検出・解析することで、生体内のより正確な状況を評価することができるメリットがあります。
 また、疾患関連細胞ごとに分泌されるエクソソームが異なるため、病態が類似した疾患の鑑別などの際には有用と考えられます。さらに、患者さんごとに分泌されるエクソソームの質が異なることもわかってきています。今後ますますニーズの高まりが予測される個別化医療に向けて、エクソソームは患者さん一人ひとりの治療指針を提供する強力なツールとなり得ると考えています。

ドラッグデリバリーシステム(DDS)としての有用性

吉岡先生:疾患治療のために有用な薬剤が開発されたとしても、生体内で目的の器官や組織に適時に送達できなくては、適切な疾患治療を行うことは難しいと考えられます。現在、核酸医薬が停滞している大きな理由には、こういった送達システムの欠如が挙げられます。これまでに、ウイルスベクターによる送達システムが検討されていますが、低い細胞特異性、細胞の免疫反応による拒絶、といった理由のために適時の薬剤送達が困難になっています。
 一方、エクソソームは標的細胞に高い特異性のある天然の送達システムです。したがって、エクソソームの内包物質や送達様式に特異性を付加して、標的細胞のみに核酸やタンパク質を送達させる天然のデリバリーシステムを構築することが可能と考えられます 22)
 しかし、送達特異性の課題をクリアしたとしても、エクソソーム粒子を生体内に挿入する治療に関しては、例えば免疫系による外来エクソソームの拒絶反応の可能性、といった課題が挙げられます。こういった点も含め、エクソソームをDDSとして用いる治療の実現に向けて、さらなる研究および技術革新が必要と考えています。

臨床応用に極めて近いエクソソーム種とは?

落谷先生:再生医療の分野では、iPS細胞から目的の細胞への分化誘導処理を行い、構築された組織を移植して治療に用いるというスキームが主流となっています。一方、細胞自体を薬剤として作用させることのできる幹細胞として、間葉系幹細胞(MSC)が注目を集めています。
 MSCは組織障害時の修復促進作用を持つ中胚葉系の幹細胞であり、骨髄、脂肪、臍帯などに存在するMSCは、再生医療や細胞治療のソースとしての利用が検討されています 23)。これまで治療効果を有する因子として、MSC由来のサイトカイン、成長因子といったタンパク質性因子が考えられていましたが、近年MSCから分泌されるエクソソームを用いて、心疾患治療効果に関する臨床応用へ向けたデータも発表され 24)、エクソソーム自体による治療効果が明らかになりました。
 さらに、脳卒中モデル動物の脳内に、MSCから分泌されるエクソソームを投与することで神経細胞の成長が促進され、また神経障害も緩和されることも示されています25, 26)。私たちの研究グループも、脂肪由来MSCから分泌されるエクソソームによるアルツハイマー病の治療可能性を報告しました 27)
 MSC由来のエクソソームを用いた疾患治療の実用化に向けては、投与するエクソソームの回収・調製過程を含めたクオリティコントロールが肝要となってきます。今後MSC由来のエクソソームを含めて、ますます広い領域でエクソソームを用いた医療に対する可能性が開かれていくと考えています。

まとめ

 エクソソームの本質が明らかになるにつれて、診断ツール、ドラッグデリバリーシステムといった、バイオロジカルツールとしてのエクソソームの有用性がますます高まることが予測される。また、再生医療の分野では、現在主流となっているiPS細胞による組織・器官の再構築だけでなく、エクソソームの分泌を本質的な機構とするMSCの投与による疾患の治療が、実臨床に用いられる日も近いのではないかと考えられる。

参考論文
20)Ha A, et al., Pancreas 2001; 23: 356-63
21)Yoshioka Y, et al., Nat Commun. 2014; 5: 3591
22)Alvarex-Erviti L, et al., Nat Biotech. 2011; 29: 341-5
23)Chamberlain G, et al., Stem Cells 2007; 25: 2739-49
24)Lai RC, et al., Stem Cell Res. 2010; 4: 214-22
25)Xin H, et al., Stem Cells 2012; 30: 1556-64
26)Xin H, et al., Stem Cells 2013; 31: 2737-46
27)Katsuda T, et al., Sci. Rep.2013; 3: 1197

落谷 孝広 先生

国立研究開発法人 国立がん研究センター研究所
分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野
主任分野長

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吉岡 祐亮 先生

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分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野
研究員

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