エクソソーム研究において研究をリードされている国立がん研究センター研究所 分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野の主任分野長 落谷孝広先生、ならびに研究員 吉岡祐亮先生のお二人に、エクソソームの概要、研究の歴史、および世界と日本での研究の現状を伺いました。

Ⅱ- i . エクソソームの回収・調製のためのポイント

Key Factors for Exosome Preparation

超遠心法はエクソソーム回収の第一選択肢

吉岡先生:エクソソームの回収・調製法としては、エクソソーム研究が開始された当初から超遠心法が第一選択となっており、当研究室では、超遠心機(Optima XE-90、ベックマン・コールター社)を用いて実施しています。超遠心法にも、①ペレットダウン法、②スクロースクッション法、③密度勾配遠心法、の3 種類があり、回収後の解析目的に応じた手法が選択されています(図3)

図3:超遠心法による沈降様式の違い
 

ペレットダウン法は、超遠心の中で最もシンプルな手法で、溶液中に存在する一定の大きさ、密度の粒子を遠心により沈降させる手法です。試料の搭載や回収を容易にするために、遠心チューブは薄くてクリアなもの(ウルトラクリアチューブ、ベックマン・コールター社)がお勧めです。ペレットダウン法では種々の解析に必要なクオリティのエクソソームを高い回収率で得ることができますが、エクソソーム以外の画分も含まれるといったデメリットもあります。
 血清や尿などの体液由来の試料には、多くのタンパク質が含まれているため、エクソソーム回収後の解析目的によっては、より純度の高いエクソソームが必要になる場合があります。そういった場合、エクソソーム以外の夾雑物を減少させるために、スクロースクッション法が用いられます。
 スクロースクッション法では1 Mまたは2 Mのスクロース溶液を遠心チューブに装填し、その上にペレットダウン法で回収したエクソソーム溶液を重層して超遠心を行います。遠心後に、エクソソームはペレットとして得られ、より軽いタンパク質などの不純物はスクロース溶液画分に留まるので、夾雑物の少ない、より高純度のエクソソームを回収できます。
 さらに、例えば他の細胞内小器官に由来する小胞顆粒とエクソソームを分離したい場合など、極めて純度の高いエクソソームの精製が必要な場合には、密度勾配遠心法を行います。密度勾配遠心法では、エクソソームの存在する1.15~1.19 g/mLのスクロース溶液画分と、それ以外の画分に存在する小胞顆粒とを分離することができます。
 当研究室では、5%、10%、20%、40%の4段階のスクロース密度勾配を作成し、その上にペレットダウン後の回収溶液を重層して超遠心を行います。目的の密度層を採取することで純度の高いエクソソーム試料が得られるため、ISEVでもエクソソーム回収法として密度勾配遠心法によるものか否かが問われる場合や、投稿論文の審査の際にも密度勾配遠心法によるエクソソーム精製が要求される場合があります。
 しかし、回収率がペレットダウン法より低く、かつ作業工程が多く手間と時間を要するため、回収後のエクソソームの解析目的に応じて3つの超遠心法から最適な方法を選択しています(表1)。例えば、純度がある程度必要になるプロテオミクスによる解析を行う場合などには、血清中に存在するアルブミンなどタンパク質成分の混入を回避するために、密度勾配遠心法を第一選択としています。

表1:エクソソームの解析目的に応じた回収法

 また、内包miRNAを解析する場合で、特に血中にタンパク質や脂質と結合して存在するcirculating miRNA 14-16)のような他種miRNAと区別して、エクソソーム由来のmiRNAのみの解析を行いたい場合には、密度勾配遠心法によるエクソソームの精製が不可欠と考えています。

エクソソーム回収法のメリット・デメリット

吉岡先生:エクソソームの回収法として、最近では各種キットも販売されています。キットによるエクソソーム回収法には、タンパク質などの夾雑物も含めて遠心沈降させるものや、特定の抗体を用いてそのタンパク質を膜表面に持つエクソソームを含む粒子を回収させるものなどがあります。
 遠心沈降させるキットを使用するメリットは、例えば多数の臨床検体からエクソソームを回収する際などには迅速な処理が可能であること、低速遠心でのエクソソーム回収が可能なため操作が簡便であること、といった点が挙げられます(表2)。一方、デメリットは、回収前の試料に含まれるサイトカイン、ケモカインといったタンパク質性因子とともに回収されるため、ペレットダウン法より夾雑物が多く、超遠心法と比較して純度が低いことです。
例えば、回収産物を細胞に添加してその効果を評価するといった実験の場合は、キットを用いて回収した試料を使用すると、エクソソーム以外の夾雑物による効果があらわれてしまう場合もあるため、最終的には超遠心法による精製が必要です。このように、回収後の解析目的やアプリケーションによって超遠心法とキットとを使い分けることができます。

表2:エクソソーム回収法のメリットおよびデメリット

 また、エクソソームの膜中に局在するタンパク質と特異的な抗体との結合反応を利用して粒子を回収する様式のキットでは、手法の性質上、特定のエクソソーム集団のみしか回収できません。例えば、エクソソーム膜に局在するタンパク質が既知のがん細胞由来のエクソソームである場合には、特定のキットを用いて回収できますが、結合させる抗原タンパク質が未知の場合にはこの手法を使用できません。
 基本的に、網羅的なエクソソームの回収が必要な場合には、超遠心法による回収が標準的手法となっています。実は、CD63はエクソソームの膜マーカータンパク質といわれていますが、当研究室では、すべてのエクソソームにCD63が局在しているわけではないことを示唆するデータも得られています 17)。この点に関しては今後さらなる検討が必要ですが、やはり最初は超遠心法によるペレットダウン法によって回収した試料から解析を開始して、ある程度解析したいエクソソームの特性が絞られた後に、特異的な抗体によるエクソソーム回収のためのキットを使用する、といった使い分けが望ましいと考えます。
 これら回収キットに共通するデメリットとしては2つあり、1つ目は、論文投稿の際にレフリーから超遠心法かどうかの確認があることです。2つ目には、キットは高額なためランニングコストの増加が挙げられます。例えば100 mLの培養上清からのエクソソーム回収に際して、キットを用いる場合には、約4 万円強のランニングコストがかかります。一方、100 mLの培養上清から超遠心法でエクソソームを回収する場合、機器自体はもちろん高額ですが、ウルトラクリアチューブ代約3,000円がランニングコストとして計上されるのみですので、キットと比較して安価に回収を行うことができます

回収率の観点からの超遠心機やロータの使い分け

吉岡先生:エクソソーム回収・調製過程では、主にサンプルの容量に基づいて超遠心機を使い分けることもあります。例えば尿や血清サンプルなど生体由来の試料の容量は1~2 mL程度ですので、卓上型超遠心機(Optima MAX-XP、ベックマン・コールター社)を用いています。卓上型超遠心機では、遠心時間が短くかつフロア型超遠心機の遠心チューブ代もより安価といったメリットがあります。一方、200 mLほどの細胞培養液からエクソソームを回収する場合、卓上型超遠心機を使用するとサンプル数が著しく増加し、作業時間も長くなってしまうのであまり適していません。
 超遠心の際のロータは、当研究室では主にスウィングロータ(SW 41 Ti、ベックマン・コールター社)を使用しています。固定角ロータはチューブの角度が固定されるため、遠心の際にエクソソームがチューブの壁に当たって吸着されたり、壁に当たった後に底部近辺に沈降するため、沈降場所がわかりづらかったりします。そのため、エクソソーム回収率の低下や夾雑物混入の増加がみられる場合があります(図4)
 一方、スウィングロータは、遠心中にチューブが水平になって粒子がまっすぐチューブ底部へ沈降するため、沈降物の回収率も上昇します。ISEVでも、スウィングロータの使用が推奨されていますし、当研究室でもスウィングロータと固定角ロータを使用した場合とで、回収される粒子のプロファイルが変化してしまったという経験がありますので、スウィングロータを使用することがエクソソーム回収において重要であると考えます。

図4:ロータの種類による沈降様式の違い

アプリケーションの多様性の点からも、固定角ロータではスクロースクッション法や密度勾配遠心法を行うことができないのに対し、スウィングロータは、1 台でペレットダウン法、スクロースクッション法、密度勾配遠心法のいずれも実施可能なため、スウィングロータをお勧めします。
 回収したエクソソームの使用目的にもよりますが、当研究室では、回収率、純度、作業工程を考慮して、スウィングロータを用いたペレットダウン法を頻繁に実施しています。また、スクロースクッション法や密度勾配遠心法では、一旦ペレットダウン法によって回収した溶液をスクロース溶液上に搭載するので、ペレットダウン法はエクソソーム回収における最も基本的な工程と捉えることができます。

回収率・純度を上げるポイント

吉岡先生:回収したエクソソームの回収率・純度を上げるためには、エクソソームを含む試料溶液の調製過程が最も重要です。細胞の培養液からエクソソームを回収する際のポイントの1つに、細胞の密度が挙げられます。効率良くエクソソームを回収するためにはある程度密な状態で培養されている細胞から培養液を回収するのが理想的なため、例えば、培養ディッシュに8~9割コンフルエントな状態となる、継代直前での培養液の回収を行っています。
 さらに、試料溶液中に細胞成分を混入させないことも極めて重要です。例えば、血液から血清を調製する際の血球細胞の混入や、尿試料中への膀胱上皮細胞の混入がある場合、それらの細胞由来の成分も回収されるため、解析プロファイルが変わってしまいます。当研究室では、超遠心操作の前に約2,000 xgで試料を予め遠心処理したり、0.22 μmのフィルターを用いて濾過処理を行ったりして、異種成分や不要な細胞を除去しています。
 また、細胞培養液中のFBS(ウシ胎児血清)にはウシ由来のエクソソームが入っているので、使用する血清の選択にも注意しています。FBSを約16時間超遠心処理することによって、エクソソームを除去した後に培養に使用したり、また、細胞種に応じてFBSを含まない無血清培地を用いて培養したりするなどの点に注意しています。
 さらに、エクソソームの静電気的なプラスチックチューブへの吸着を防止するため、超遠心後のエクソソーム溶液を低吸着チューブに回収しています。

まとめ

 超遠心法は、エクソソームの回収・調製の際に不可欠であり、ISEVでもゴールドスタンダードとされている。エクソソームを回収する試料の容量や回収後の解析目的に応じて、超遠心機、ロータ、および超遠心法の使い分けを行い、さらに回収調製時のポイントを踏まえることで、回収率および純度の高いエクソソームの回収を目指したい。

参考論文
14)Arroyo JD, et al., Proc Natol Acd Sci. USA. 2011; 108: 5003-8
15)Vickers KC, et al., Nat Cell Biol. 2013; 13: 423-33
16)Wang K, et al., Nucelic Acid Res. 2010; 38: 7248-59
17)Yoshioka Y, et al., J Extracell Vesicles 2013; 2: 20424

> Ⅱ- ii. エクソソームの円滑な解析のためのポイント

落谷 孝広 先生

国立研究開発法人 国立がん研究センター研究所
分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野
主任分野長

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吉岡 祐亮 先生

国立研究開発法人 国立がん研究センター研究所
分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野
研究員

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