エクソソーム研究において研究をリードされている国立がん研究センター研究所 分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野の主任分野長 落谷孝広先生、ならびに研究員 吉岡祐亮先生のお二人に、エクソソームの概要、研究の歴史、および世界と日本での研究の現状を伺いました。

Ⅰ. 新しい形の細胞間コミュニケーションツールとしてのエクソソーム

Exosome: A Novel Type of Cell-to-Cell Communication Tool

エクソソームを介する細胞のクロストーク

落谷先生:私たちの体の組織・臓器は、異なる性質を持つ多種類の細胞から構成されています。それらの細胞間では、サイトカイン、ケモカインといったタンパク質性因子によってシグナル伝達などのコミュニケーションが行われていると考えられてきましたが、近年、エクソソームと呼ばれる細胞外小胞によっても、より頻繁なコミュニケーションが行われていることが明らかになってきました。
 細胞は、普段はそれほど多くのエクソソームを分泌していませんが、外界の温度、栄養状態、酸素供給状態の変化といった細胞周囲の環境変化やストレスが加わると、細胞の生理的状態に変化が起こり、エクソソームの分泌量や質そのものが変わることがわかってきています 1 )。正確なメカニズムは明らかではありませんが、周囲の環境変化に伴って細胞がエクソソームを分泌することによって、自身の周囲の環境を「コンディショニング」していると考えられています。
吉岡先生:エクソソームには、mRNAやmiRNAといった核酸やタンパク質などが内包され、到達先の細胞内にそれらの情報を伝達することで、遺伝子発現などの細胞機能を調節していることもわかってきています。
 エクソソームは、血液などの体液に乗って輸送されますが、特定のエクソソームが到達しやすい臓器・組織があることもわかってきており、輸送様式には何らかの特異性があると考えられています。例えば、がん細胞は転移先の細胞へ到達しやすい輸送様式を持っていることが示されており 2, 3)、その一因としてエクソソームの膜に局在するタンパク質による特異性の決定が考えられています。
落谷先生:がん細胞は、周囲の細胞とエクソソームを介したコミュニケーションを活発に行い、「がん微小環境」と呼ばれる、自身が生き延びるのに適した環境を積極的に構築しようと試みています 4 )。例えば、自身の分身としてのエクソソームを周囲の細胞に分泌して宿主の中で生き延びようとする試み、抗がん剤の作用に対抗しようとする試み、離れた場所へ転移して生き延びようとする試み、などの際にエクソソームが多量に分泌されることが明らかになってきています 3, 5, 6 )
 一方、正常細胞は周囲にがん細胞が生じた場合、普段は内包していない種類のmiRNAなどをエクソソームに内包し、分泌することによって、がん細胞の増殖を抑制しようとします(図1)

図1:エクソソームによる細胞間コミュニケーションの例。
お互いの細胞が、自身に有利になるようにエクソソームを利用して働きかけている

環境変化への迅速な対応と細胞間コミュニケーションを可能に

落谷先生:エクソソームを介した環境のコンディショニングは、ゲノム情報を用いたセントラルドグマやエピジェネティックな遺伝子発現制御と比較して、より短期間での環境応答システムと考えることができます。サイトカインなどのタンパク質の発現によって環境変化に対応しようとする場合、DNAの情報をもとにmRNAが合成され、その後タンパク質に翻訳される、といったセントラルドグマによる長い過程と時間が必要ですが、エクソソームにmiRNAを内包して分泌すれば、血流に乗って標的細胞に送達されて、極めて短時間でmiRNAによる遺伝子の発現制御を行うことができるという、非常に迅速な対応が可能です(図2)
このような迅速な反応は、私たちの体の中では特に脳の神経細胞で多く必要とされています。神経細胞は、電気的シグナルとミエリン髄鞘を利用することで、高速なシグナル伝達を行っていますが、加えて、迅速かつ効率的な細胞間シグナル伝達因子としてmiRNAを使用している可能性があり、実際に、神経細胞、中枢神経系の髄鞘を形成するoligodendrocyte(乏突起膠細胞)やastrocyte(星状膠細胞)から、様々なmiRNAを内包したエクソソームの分泌が報告されています 7, 8 )
 また、アルツハイマー病でも、神経細胞の壊死を起こすことが知られているアミロイドβがエクソソームに内包・輸送され、取り込まれた先の神経細胞で細胞死を誘導することがわかってきています 7 )。今後、脳疾患におけるエクソソームの機能に関して、非常に活発な研究が行われるようになると考えています。
 こういった疾患に対しては、神経細胞死のような私たちの体に好ましくない反応を抑制するために、エクソソームの分泌を防止することが治療につながると考えられています。今後、がん領域の研究のみならず、神経性疾患や免疫性疾患においても、ますますエクソソームの関与が明らかになり、それを利用したバイオロジカルツールが考案されることを期待しています。

図2:エクソソーム(miRNA)による迅速な生体機能制御

エクソソーム研究の変遷

落谷先生:エクソソームの存在は1987年にすでに報告されていましたが 9 )、実際には、その十数年前にナノサイズの細胞外小胞の存在自体は細胞生物学者に認知されていました。ただ、そういった粒子が生物学的に意義のあるものなのか否かは不明でした。
 その後、分泌顆粒を介して抗原提示などのシグナル伝達を行う免疫系のdendritic cell(樹状細胞)を中心に、エクソソームの機能が研究されてきました。1998年にはがん細胞に対するワクチンとしての利用が検討され 10 )、臨床試験も行われていましたが、あまり有用な結果は得られていませんでした。
 エクソソームが注目を集めるきっかけとなった発見は、2007年のLötvallらの研究グループによる、miRNAがエクソソームに内包されているという報告でした 11)。この報告では、遺伝情報がエクソソームを介して細胞間をトランスファーされる可能性が示されたため、世界中の研究者がこの細胞外小胞に注目し、以降様々な分野におけるエクソソームの研究が飛躍的に発展しました。
 免疫学の分野でも、がん細胞とがん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL)とのシグナル伝達におけるエクソソームの役割が、積極的に研究されるようになりました。多くのがん患者さんでは、がん細胞による免疫抑制作用である免疫チェックポイントによってCTLの活性が低下しており 12)、抗がん剤の作用もあらわれにくくなっています。がん患者さんの免疫機能を正常化するには、CTLの免疫チェックポイントを解除する必要があり、その過程にエクソソームが関与していると考えられています。
 がん、免疫性疾患、神経性疾患のほか、現段階では疾患の指標・診断ツール・発病メカニズムが解明されていない疾患であっても、エクソソームの関与が示唆される多くの所見が蓄積されてきているものもあります。今後、ますます多くの細胞種による生命現象へのエクソソームの関与が明らかになることが予想されます。

エクソソームの本質を探るスタートラインに立つ

落谷先生:2007年にエクソソームにコミュニケーションツールとしての概念が付加されたことにより、死因第一位であるがんに関しては、がん細胞と正常上皮細胞、がん細胞と血管内皮細胞、がん細胞と免疫細胞のクロストークのメカニズムが精力的に研究されるようになりました。そしてそれらのメカニズムに関する知見を治療へ応用するために、精力的に研究が推進されてきました。
しかし、エクソソームはがん細胞だけでなく正常細胞を含めて多様な細胞から分泌されています。現在でも、エクソソームの「本質的な部分」に関しては理解が不十分な状態と考えています。例えば、なぜエクソソームが存在するのか、どのようにして合成されるのか、どのようにしてmiRNAなどの核酸・タンパク質が内包されるのか、どのようなメカニズムで細胞外へ分泌されるのか、細胞からの分泌量の増減はなぜ起こるか、分泌されたエクソソームの細胞への取り込み特異性はどのように決定されるのか、といった各ステップでの制御メカニズムに関しては、不明な部分が多く残されています。
 そのため、エクソソームの本質を深く理解しようとする動向が、ここ5~6年で盛んになってきています。2011年にパリでエクソソーム研究会が開催されたのをきっかけに、その後ISEV(International Society for Extracellular Vesicles)が設立され、世界中の研究者で協力して、エクソソームを含む細胞外小胞の本質究明への動きが本格的に始動しました。私としては、ここをエクソソーム研究の真の出発点と捉えています。エクソソームの生理学的意味、診断・デリバリーツールとしての応用、治療ツールとしての利用可能性も含めた研究に関して、今後エクソソームの本質に関する知見が多数提供されるようになると考えています。

日本のエクソソーム研究の新潮流

落谷先生:日本でも、多くの研究者がエクソソームの生理的機能や疾患への応用可能性に関する研究に取り組んでいます。エクソソームを含む細胞外小胞の研究領域においては研究費も多数採択されており、特に若手研究者に対するバックアップも積極的になされています。
 2014年にはISEVの日本版としてJSEV(Japanese Society for Extracellular Vesicles)も立ち上げました。こういった場を利用して他の研究者と交流を深め、日本のエクソソーム研究者を多数育成していきたいと思いますし、エクソソームを研究テーマとして、分野横断的な研究が遂行されることを期待しています。
 エクソソームの研究を行う際には、細胞から分泌されたエクソソームを高い精製度で回収・調製するために超遠心法が不可欠な手法となっています 9, 13)。超遠心法は、エクソソームの調製法としてISEVでもゴールドスタンダードとされており、最も信頼度の高いエクソソーム精製法とされています。当研究室でも、日々超遠心法を用いてエクソソームの回収・調製を行っています。次回から、超遠心法におけるエクソソーム回収・調製法について、当研究室で心がけている基礎的なポイントと工夫点についてご紹介します。

まとめ

 エクソソームを介した細胞間コミュニケーションの研究は、2007年にmiRNAが内包されているという報告がなされて以来、飛躍的に発展した。特に、がん細胞などの疾患細胞から分泌されるエクソソームによる正常細胞への影響に関して、研究成果は目覚ましいものがある。しかし、エクソソームの細胞特異的な分泌・輸送様式や、標的細胞での取り込みによる生体機能制御といった本質的な部分のメカニズムに関しては、今後の研究成果が期待される。

参考論文
1)Théry C. F1000 Biol. Reports 2011; 3: 15
2)Shao H, et al., Nat Med. 2012; 18: 1835-40
3)Peinado H, et al., Nat Med. 2012; 18: 883-891
4)Kosaka N, et al., J Biol Chem. 2013; 288: 10849-59
5)Tayler DD, et al., Gynecol Oncol. 2008; 110: 13-21
6)Kosaka N, et al., Cancer Sci. 2010; 101: 2087-92
7)Verderio C, et al., Ann Neurol. 2012; 72: 610-24
8)Fitzner D, et al., J Cell Sci. 2011; 124: 447-58
9)Johnstone RM, et al., J Biol Chem. 1987; 262: 9412-20
10)Zitvogel L, et al., Nat Med. 1998; 4: 594-600
11)Valadi H, et al., Nat Cell Biol. 2007; 9: 654-9
12)Teft WA, et al., Annu Rev Immunol. 2006; 24: 65-97
13)Pan BT, and Johnstone RM, Cell 1983; 33: 967-78

> Ⅱ- i. エクソソームの回収・調製のためのポイント

落谷 孝広 先生

国立研究開発法人 国立がん研究センター研究所
分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野
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