分析用超遠心機システムとは

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沈降現象と沈降速度法について はじめに

遠心機は、高速回転の遠心力により沈殿しにくいサンプル(分離するのに時間のかかるサンプル)を沈殿または沈降させる目的で使用されます。遠心により、固体成分を沈殿させ、または比重に応じて分けることができます。これは分離用遠心と呼ばれる用途です。

遠心機の中

超遠心機は、非常に大きな加速度g-force(千~数十万倍の重力)をサンプルにかけることができる装置です。これをタンパク質などの生体高分子や、ナノ粒子などの溶質に応用するとどうなるでしょうか?
例えば、分子量10万の分子に10万Gの重力をかけると分子量100億(10万×10万)として挙動します。つまり、沈降現象が起こります。溶質が回転半径の外側にむかって一斉に移動し、溶質がほとんど存在しない領域(濃度ゼロに近い上清)が内側に現れてきます。 このプロセスを何らかの方法で観察できれば!・・。この試みが超遠心分析法Analytical Ultracentrifugationの発端であり、そのために超遠心技術を使って、分析用超遠心システムが開発されました。

分析用超遠心機の歴史 - 超遠心の「超 Ultra」とは?

1920年代にスウェーデンの科学者Svedberg(スベドベリー)により世界で始めて分析用超遠心機Analytical Ultracentrifuge(AUC)が開発されました。
Svedbergは微小粒子を解析するために、より高速で回る遠心機本体から開発する必要がありました。当時Svedbergは「光学系を備えたもの」、「単なる分離を超えたもの」という意味で「Super」や「Hyper」ではなく「Ultra 超」と名づけました。それが超遠心の「超」という名前の由来です。現在では超遠心というと、一般に分離用超遠心機を指すことが多いですが、実は分析用超遠心機が発端なのです。
1947年にはベックマン・コールター社の遠心機部門の前身であるSpinco社(スピンコ社,米カリフォルニア Palo Alto)により分析用超遠心機が製品として発売されました。名機Model-Eの誕生です。現在でも十分な性能を発揮する完成された分析用超遠心装置です。E型を改良して、1950年には分離用超遠心機Model-Lが発売されました。分析用超遠心機が、分離用超遠心機よりも3年も先に発売されていたという歴史を持っています。

スベドベリー
スベドベリー
Theodor (The) Svedberg
(1884年8月-1971年2月)
ノーベル化学賞受賞

分析用超遠心システム

中がのぞける遠心機

分析用超遠心システムは、「遠心中に起こるサンプルの沈降現象を覗くことができる装置」です。データは、ローター内のセル中の各位置での濃度のグラフとして得られます。濃度情報は溶質の光学的吸収または干渉縞の変位として記録されます。
試料となる溶液を上下が光を透過するセルに入れ回転させます。回転数と温度を制御しつつ、タイミングを合わせて光をあてます。セル内の濃度勾配を観察します。さらに時間を追ってスキャンを繰り返すことで経時的な濃度勾配の変化を記録していきます。

2つの光学系 吸収Absorbanceと干渉Interference

測定には2種の光学検出系が利用できます。一つは吸収光学系Absorbanceでもう一つは干渉光学系Interferenceです。

光学系

吸収光学系では光源にキセノンフラッシュランプを使い、回転中のセル(対照セルとサンプルセル)に、ある波長(UVや可視光)の光を照射します。数万回転で回っているセルに対してタイミングを合わせて光を当てます。さらにセルの半径方向(回転の中心側から外側の方向)に沿って、スキャンをして各位置でのサンプルによる吸光度を記録します。
干渉光学系には光源にレーザーを用い、2つの小さいスリットでレーザー光を分離し、対照となる溶媒側セルとサンプルが含まれる溶液側セルにそれぞれ照射されます。セルを通過した光が作る屈折率の違いから生じる干渉縞(フリンジ)を、高感度CCDカメラで、セル全体の画像としてとらえ、そこから濃度情報を得ることができます。干渉検出系は吸収を持たないサンプルや高濃度溶液のサンプルに対して有効な検出法になります。

どちらの光学系も一定時間間隔で測定を行い、経時的な沈降パターン変化を得ることができるようになっています。

2つの測定方法 沈降速度法と沈降平衡法

超遠心分析法には大きく分けて2通りの測定方法があります。沈降速度法Sedimentation Velocityと沈降平衡法Sedimentation Equilibriumです。沈降速度法では沈降係数(s)や拡散係数(D)が得られ、沈降平衡法では分子量(M)が得られます。分子量は測定溶媒中での溶質の状態を反映するもので、その溶質自身の会合体の有無や構成は得られた分子量と単量体(モノマ)の分子量の比から求めることができます。タンパク質であればその4次構造を詳細に解析できます。

スベドベリが当時測定した2nmの金コロイドの粒度分布1926年「分散系に関する研究」によりノーベル賞を受賞。
何がわかるか?

溶質が一種なのか複数種含まれるか、または凝集体が存在するのかといった情報は沈降速度法を行い、全体の沈降パターンが均一であるかどうかから解析できます。タンパク質においては4次構造における多様性の評価ができます。たとえば、抗体sなどのタンパク質製剤溶液中で会合状態が均質かどうか、凝集体が見られるかどうかなどを調べるのに応用されています。
沈降速度法では拡散係数も得られ、摩擦係数から分子形状情報を得ることができます。会合体タンパク質の場合、溶液中で棒状に連なっているのか、または球状に近いコンパクトな形をとっているのかなど大変有用な情報を得ることができます。

沈降速度法 沈降していく過程をモニタする

沈降速度法では比較的高い回転数で遠心を行い、溶質が沈降していく過程を時間を追って観測します。遠心をかける前では全体が均質な濃度になっていますが、遠心が始まると試料分子(タンパク質などの高分子)が外側に向かって移動を始め、その結果内側にはほとんど溶質が存在しない部分が生じます。タンパク質なら自身の吸収帯である280nmの紫外線によりモニタすると、内側と外側の濃度を示すS字状の沈降界面が得られ、時間とともに外側(ボトム側)に向かって移動していきます。遠心分析法で、このように時間を追って濃度変化をモニタしていく分析法を沈降速度法といいます。
一般に重さの大きい溶質ほど速く沈降します。同一条件下で重さの違うサンプルを分析すれば界面の進み方に違いが現れます。いわゆる沈降係数は、サンプル固有の沈降の速さを表わしたものです。

沈降速度法 サンプルの大きさが異なると

沈降係数は温度や溶媒粘度、比重、試料高分子の形、排除体積(偏比容v barという)などにより影響を受けますので実際解析を行う際にはこれらの補正を加えて計算します。このようにして沈降係数を算出する機能を分析用超遠心システムProteomeLab Optima XL-A及び XL-Iは標準で備えています。

拡散係数・摩擦係数と分子形状

超遠心分析法ではS字状の沈降界面から重要な情報が得られます。 溶質自身の拡散が溶液中で全く起こっていないと仮定した場合、均質な分子集団では溶質すべての沈降速度は同一であるため、界面はシャープな一本の縦直線となります。しかし実際にはそのようなことはなく溶質同士または溶質と溶媒との摩擦により拡散がおこるため界面が拡がりにじんだようになります。このため生データのグラフはS字状になります。

沈降速度法 沈降界面の拡がり

拡散係数(D)が分かればEinstein-Sutherlandの式

拡散係数(D)が分かればEinstein-Sutherlandの式


から摩擦係数(f)が求まります。摩擦は分子形状によって大きく影響を受けます。実際この摩擦係数から分子形状が球とどのくらい違うかを議論することができます。分子を回転楕円体として見た場合の長軸・短軸の軸比から扁平/偏長といった情報が得られます。
沈降平衡法では比較的低速でローターを回転させ,溶質分子の沈降と拡散が平衡に達した時点における濃度勾配を観測します。沈降平衡法で求められる分子量は分子の形によらないのが特徴です。