分析用超遠心機(AUC)の歴史
1980~90年代:摩擦力に直面する

1992年、Beckman Instrumentsから発売した画期的な新しい分析用超遠心機XL-Aにより「AUCルネッサンス」が大きく加速しました。

摩擦力とは、2つの面が互いに接触し摺動することによって発生する力のことです。この摩擦力の強さは、表面の質感、角度、位置はもちろん、これらを互いに押し付けあう力の大きさによっても影響されます。

カリフォルニア大学バークレー校のハワード・シャクマン(Howard Schachman)のような高い評価を受ける科学者らからの継続的なサポートを含めて、研究者団体にAUCの価値が証明されたにもかかわらず、1980年代初頭までAUCはその輝きを失いつつありました。

この問題を悪化させたのは、3つの「摩擦力」でした。

1つめは、AUCは難しすぎて多くのルーティンの実験ができないが、一方では高精製システムや溶液に関する深い化学的理解を求める研究者にとっては価値があるという考えの増加です。16

そのため、多くの生化学者および分子生物学者が、ゲル浸透クロマトグラフィーやゲル電気泳動といった簡単で低コストの技術を用いて分子量を決定し始めました。さらに、結晶学と核磁気共鳴(NMR)が注目を集め始めたため、AUCにはあまり興味を持たれなくなりました。9 実際に1980年代に出版された教科書から、分析用超遠心分離の項目が完全に抜け落ちていることも珍しくありませんでした。

支持者は、AUCは他の分子生物学的方法よりも簡単に実行できると主張し、詳細な定量分析を行わなくても、溶液中の分子に関する完全で分かりやすい情報を提供しました。例えば、予想外に速い/遅い界面は、他の実験方法から得られる複雑な結果を説明するために必要な洞察を提供することができました。16

2つ目の摩擦力は1つ目と密接に関連していました。

過去20年間に行われた藤田の画期的な研究にもかかわらず、AUCによって生成された大量のデータ解析は依然として複雑で時間のかかる作業でした。沈降速度データから、沈降係数(sedimentation coefficients)、並進拡散係数(translational diffusion coefficients)、摩擦係数(frictional coefficients)、浮遊重量(buoyant mass)を求めることは、特に複雑な混合物からは難しいことでした。なぜならばラムの方程式(the Lamm equation)解析のシンプルな解はまだ存在しなかったからです。16

3つめは、分子生物学や組換え技術の発展により、バイオポリマーの生物物理学的な化学全般の関心が衰え始めてしまったことです。11

1950年代から70年代までがAUCの「全盛期」だとしたら、そのブームは終わりを迎えようとしていました。

60,000 rpmでの自業自得

実際、分析用超遠心機が、ダイヤル式電話や8トラックテープと同じ運命をたどるわけではないと明らかになるまで、時間はかかりませんでした。

1980年中頃まで、NMR(高解像度モード)と結晶学は限られた数の生物学的高分子にしか応用できないことははっきりしていました。さらに、正確な分子量を得るにあたり、ゲル濾過とゲル電気泳動技術がAUCに比べ信頼性が低いことが示されました。ー正確な分子量のデータは高分子の集合体のサブユニット組成を評価するのに必須でした。9

また皮肉なことに、1990年代までに科学史のゴミ箱へAUCを追いやる寸前に見えた分子生物学とバイオテクノロジーでしたが、バイオ療法のタンパク質に関する研究のようないくつかの進歩により、生体高分子とナノ粒子の物理学的相互作用の厳密な理解が必要となりました。

ベックマンXL-A分析用超遠心機

その結果、AUCへの関心が回復し始めたのです。

この「AUCルネッサンス」は、1992年にBeckman Instrumentsから発売された画期的な新しい分析用超遠心機XL-Aにより、大きく加速しました。(現在、ProteomeLab XL-AとしてBeckman Coulter Life Sciencesが製造)

Spinco Model Eの分析力をもちながらModel Lに似たデザインで、XL-Aはコンパクトで簡単に操作ができるものでした。初期のモデルとは異なり、ロータの速度、温度、データ収集は全てコンピュータ化されました。

今や数時間から数日間続く実験を、実験者の介入を最小限に抑えて行うことができ、実験の進行中、リアルタイムでデータを表示し分析することができるようになりました。12

ハワード・シャクマンがエド・ピッケルにSpincoで改良するよう提案した際の内容を取り入れ、新しいXL-Aは、190~800nmの波長領域でサンプル濃度の測定が可能な吸光光学計とスキャニングモノクロメーター機能を搭載しました。

レイリー干渉計は後にXL-Aに追加され、両方の光学計のデータを同時に記録できる装置ProteomeLab XL-Iが作られました。

シャクマンとピッケルが何十年も前に学んでいたのですが、各光学計には利点と欠点があります。紫外可視吸光測定計は特に核酸にまつわる実験や強い発色団を含む高分子の検出に特に有益です。

対照的に、レイリー干渉計は多糖類のような強い発色団を含まない高分子や緩衝液中に強い吸収を持つ成分を含むサンプルの分析に優れています。また高濃度のサンプル解析にもこの干渉計が選ばれます。

どちらの光学計が使われるにしても、超遠心機XL-AとXL-Iは、AUCの歴史において驚異的な進歩を遂げました。

1960年代、最も設備の整った研究室でさえ、分子量の測定と自己会合する単純なタンパク質の会合パターン解析に数週間もかかっていました。それが今では、このような測定が日常的に数日で行うことができるのです。

そのため1990年代のAUCは、時代遅れの方法ととらえられることなく、次に示すような溶液中の高分子の性質を解明するための方法となっていきました。

  • サイズ
  • サイズ分布
  • 純度
  • 立体構造
  • 非熱力学的性質(ビリアル、活量係数含む)
  • 自己会合の平衡定数
  • リガンド結合と他の高分子への結合
  • 高分子複合体の安定性
  • 自己会合のメカニズム
  • ゲルの構造および高分子ネットワーク構造の性状解析

1920年代にテオドール・スベドベリが考案し、1940年代にビームスとピッケルによって改良され、1950年代に将来を見据えたアーノルド・ベックマンが投資した技術は、世界中のライフサイエンス研究に再び重大な貢献を果たしました。

また、生物化学者でカリフォルニア大学バークレー校の大学院教授として尊敬されていた、長年にわたるAUC愛好家ハワード・シャクマンが、二量体と三量体の安定性について、AUCから知り得ることを示す興味深い方法を思いついたのも、ちょうどこの時期でした。

いたずらっぽいユーモアで知られていたシャクマンによれば、彼の「モンキーモデル」は当時の文献の人気パートになっていて、ロックフェラー大学ハーベイ協会での講演では大きな盛り上がりを見せたそうです。14

しかしながら、AUCの重要な次の一歩を進めたのは、シャクマンのモンキーモデルではありませんでした。それは、ラム(Lamm)でした。


9 Harding SE. Analytical Ultracentrifugation and the genetic engineering of macromolecules. Biotechnol Genet Eng Rev 1993;11:317-356.
12 Cole JL, Hansen JC. Analytical Ultracentrifugation as a contemporary biomolecular research tool. Journ Biomolec Tech 1999;10:163–176.
14 Howard Schachman, “University of California Professor of Molecular Biology: Discussions of His Research Over His Scientific Career From the 1940s Until 2010,” conducted by Sondra Schlesinger between 2007 and 2010, Regional Oral History Office, The Bancroft Library, University of California, Berkeley, 2010.
16 Laue T. Analytical ultracentrifugation: a powerful ‘new’ technology in drug discovery. Drug Discovery Today: Technologies 2004;1(3):309-315.