分析用超遠心機(AUC)の歴史
1950~70年代:AUCの制約が解かれる

1959年、シャクマン(Schachman)の発表した著書
『Ultracentrifugation in Biochemistry』に、AUCに向けた彼の情熱がついに表現されました。

科学の歴史家の間での一般的なコンセンサスによれば、1950年代と1970年代のあいだにAUCの最初の「ブーム」が現れたといいます。9

1951年までに70台以上のSpinco Model E超遠心機が売れ、1960年代に移る前にはその4倍以上が使用されることになります。

ジョナス・ソーク(Jonas Salk)とアルバート・セイビン(Albert Sabin)は1954年にポリオワクチンの市販を開始しましたが、彼らはポリオウイルスを分離するのに超遠心機を使用しました。このワクチンが世界中の何百万人の命に影響を及ぼし、そして現在でもそれが続いています。依然としてポリオウイルスは西ナイル熱、SARS、エボラなどを始めとする他の有害なRNAウイルスの生物学を理解するための有用なモデル系です。

さらに1954年、pH計(他の分析装置の中でも)の発明家であり化学者、かつ元カリフォルニア工科大学教授アーノルド・ベックマン(Arnold Beckman)はAUC技術の将来を理解し、Spincoを買収しました。続いて彼は、自分の20年来の会社Beckman InstrumentsにSpinco部門を創設しました。

アーノルド・ベックマン

その後間もなく、アメリカのほぼ全ての生物化学部門がAUC装置を導入しました。そのほとんどがSpinco Model Eでした。その当時、その装置は主に沈降係数と分子量の測定に使用されていました。

アーノルド・ベックマンの会社(と現代に引き継がれたベックマン・コールター社)は世界中でAUC技術における確固たるリーダーとして頭角を表します。そして今日も依然としてこの地位が保たれているのです。

畏敬の念を抱くシャクマン

ただしベックマンだけが1950年代のAUC「ブーム時代」に対する大きな功績に値するわけではありません。多くの人たちの中で、ベックマンは、バークレーで1948年に学部教授になったばかりのハワードK・シャクマン(Howard K. Schachman)とその栄誉を分かち合います(この2人の科学者の栄誉の結びつきはAUCに関してだけの一致ではありませんでした)。バークレーは、偶然にもパサデナにあるBeckman Instrumentsから400マイルしか離れていませんでした。

シャクマンは、何十年か後に「love affair with the ultracentrifuge10」について書いているように、Spincoのエド・ピッケルが吸光度計の追加など超遠心機(スベドベリが30年前に用いた早期バージョン)への改良で行う実験を奨励する中心的な役割を果たしました。

シャクマンは同様にモノクロメーターの装置への組み込みを奨励し、後にレイリー干渉計の組み込みも提案したのです。1950年代、AUC技術にこれらの追加を行ったおかげで、シャクマン自身がついにリボソームの発見に重要な役割を果すことになります。これはタンパク質がどのように合成されるかを解読するにあたって我々の技量に計り知れない前進をもたらしました。

ハワードK・シャクマン

2つめのベックマン/シャクマンの一致は、1945年サンフランシスコにおけるシャクマンのハネムーンに遡ることになります。そこに滞在している時、彼は米国海軍のために超遠心機の製作を行う可能性についていくつかの研究を行っていました。これがモリス・ハナフィンという名前の男性との出会いに導きます。彼もまた超遠心機の製作を行う人を探していたのでした。彼がすでに学んだことを基に、シャクマンはハナフィンに連絡すべき人物のことを話します。それがエド・ピッケルだったのです。

そして、その運命的な出会いによりハナフィンとピッケルがSpincoを作り上げる機運へとつながっていったのです。これこそが10年もたたないうちにアーノルド・ベックマンが購入することになる会社です。そして最終的にシャクマンの多大なる愛情の対象となる装置を製造する会社です。

もちろんシャクマンだけが1950年台に基本的なAUC技術の改良を検討し実証したわけではありませんでした。

1958年にあるクリエイティブな追加がありました。マシュー・メセルソン(Matthew Meselson)とフランクリン・スタール(Franklin Stahl)は超遠心機を用いて核酸を分離するために、高濃度のセシウムクロライドを使用しました。これはDNA複製問題の優れた解決策となったのです。DNAの半保存的複製に関する機序を証明するため、Spinco Model Eの分析用超遠心機による密度勾配を用いた実験は「生物学において最も美しい実験」として広く見なされています。

シャクマンはこの実験の詳細に疑いもなく同意したものの、彼はAUCの操作についてメセルソンと必ずしも同意することはありませんでした。

シャクマンは、マサチューセッツ州ウッズホールにある海洋生物学研究所(the Marine Biology Laboratory)で長期休暇を過ごす間に、メセルソンに学んだことのある学生に出会いました。シャクマンは困惑したことに、この学生は超遠心機をとても恐れているように見えました。メセルソンは起こりうる災害を恐れて、超遠心分離機の近くに生徒を留めることを承知しなかったのです。この恐怖はそのことに起因していました。

シャクマンが大変愛していた技術についてこのように誰かが感じることは残念ですが、シャクマンは彼の学生らにAUCを使用した実験を行わせることを躊躇しませんでした。後に記述しているように、装置により学生が怪我をするかもしれないと心配するメセルソンの懸念は根拠のないことだと確信がありました。

1959年にシャクマンが発表した著書『Ultracentrifugation in Biochemistry』に、AUCに向けた彼の情熱がついに表現されました。この272ページの教科書はAUCの新たなバイブルとなり続け、シャクマンが自分のAUCバイブルと呼んだ本である『The Ultracentrifuge by Svedberg and Pederson』を凌ぎました。

シャクマンの教科書の出版はAUCの歴史において極めて重要な10年に有終の美を飾るのにふさわしいものとなりました。1960年代を通し、シャクマンとジャック・ウィリアムス(Jack Williams)、デビッド・イファンティス(David Yphantis)、K.E.ヴァン・ホルド(K.E. van Holde)を含むその他の人々はAUCを使用して革新的な仕事を行いました。後に「激動の10年」と呼ばれることになったのは、タンパク質、リポソーム、DNA、ウイルスについての我々の知識が劇的に広がり洗練されたためです。

分析に関する課題へのソリューション

AUCの歴史においてもう一つの重要なマイルストーンは、1962年、藤田博(訳注:大阪大学理学部名誉教授)による『沈降分析に関する数学的理論(the publication of Mathematical Theory of Sedimentation Analysis)』の発表でした。

その数年前、藤田は、溶質の沈降係数に関する拡散および濃度依存性の総合的な効果が、いかに沈降界面の形状を決定するかについての長期にわたる問題を解決していました。

藤田の初の研究論文は、その後の13年間、超遠心機の実験における数学的解析において標準となる仕事と広く考えられていました。大幅な改定は1975年に発表された藤田の『超遠心分析の基礎(Foundations of Ultracentrifugal Analysis)』によるもののみでした。

藤田 博

沈降実験に関する解析についての藤田の業績の多大なる影響によって、AUCは1970年代に上昇機運を迎えました。1980年までに世界中で使用されるAUC装置は2,000台と推定されていました。3

AUCは、溶液における生体高分子やその複合体の分子量を評価するために、頻繁に用いられる技術となりました。また、研究者は、生体分子および/または複合体の均質性や形状を決定し、そして、それら自身(自己会合)や他の成分(ヘテロ会合)による凝集の性質を分析するために、AUCを用いることとなりました。11

残念なことに、スベドベリは彼が何十年も前に発明した技術がこのように広く使わるようになることを見届けるまで生きながらえることはできませんでした。彼は自国スウェーデンで1971年、享年87歳で亡くなりました。

一方で、スベドベリは1980年代の初頭AUCの影響の衰退を見ることもありませんでした。

ほんの数年の短い期間で、AUCの上昇機運は減速を始めます。


3 Serdyuk IN, Zaccai NR, Zaccai J. Methods in molecular biophysics: structure, dynamics, function. 1st ed. New York (NY): Cambridge University Press; 2007.
9 Harding SE. Analytical Ultracentrifugation and the genetic engineering of macromolecules. Biotechnol Genet Eng Rev 1993;11:317-356.
10 Schachman H. Still looking for the ivory tower. Annu Rev Biochem 2000;69:1–29.
11 Berkowitz SA, Philo JS. Characterizing biopharmaceuticals using analytical ultracentrifugation. In: Houde DJ, Berkowitz SA, editors. Biophysical characterization of proteins in developing pharmaceuticals. Waltham (MA): Elsevier; 2015.