分析用超遠心機(AUC)の歴史
21世紀のAUC:ラムの新たな分析法

Lammの方程式は溶質の濃度分布について説明するもので、典型的な扇形セルにおける超遠心下の沈降と拡散から導かれるものです。

21世紀の初め、AUCに関連する最も重要な進展は、沈降速度実験の科学よりも数学に関することでしょう。

スベドベリ(Svedberg)は、最初の分析用超遠心分離機を作った最大の功労者ですが、沈降速度のデータを分析する方法を考案した人物は、スウェーデンのヨーテボリ出身で博士号をもつスベドベリの生徒でした。

彼の名前はオレ・アルバート・ラム(Ole Albert Lamm)です。

1929年、彼は超遠心場における移動界面の挙動を説明する一般的な方程式を導き出しました。より具体的にいうと、後に彼の名前がつくこの方程式は、典型的な扇形セルの中で遠心分離下の沈降と拡散に起因する溶質の濃度分布を示しました。

ラムの貢献により、沈降分析は単一(微分)方程式を使って表すことができました。残念ながら、ラム方程式は一般解を直接得ることはできません。厳密解は無限級数の積分であり、数値解法でのみ計算することができます。

オレ・アルバート・ラム

1929年のLamm方程式の完成から20世紀の大部分の間、明白な解析方法がなかったために、沈降速度(SV)解析は進捗せず実験配置は制限されていました。4

また一方で、AUCの使用が増加するにつれて、ヒルディング・ファーエン(Hammding Faxem)、W.J.アーチボルド(WJ Archibald)、そして最近では藤田博らを始めとする科学者によって、Lamm方程式は特定の限られた場合に数値解析的に解かれました。

しかし、西暦2000年より、我々はコンピュータの時代 ースベドベリとラムが想像するだけだった時代ー を迎えました。

コンピュータはもはや冷蔵庫のような大きさではありませんでした。「パーソナルコンピュータ」は世界中の家庭用テレビと同様に普及しつつありました。そして、SVデータ分析のための、ラムの方程式の直接フィッティングができるソフトウェアの導入により15、ラム方程式の大きな可能性がついに実現されたのです。

このようなソフトウェアプログラムの1つがSEDFITです。ピーター・シュック(Peter Schuck)らによって開発され、SVデータに適合するLamm方程式の解を迅速かつ厳密に得ることができました。16

他のプログラムと並んで、SEDFITは新しい実験戦略とアプリケーションを生み出し4、微量のコンタミネーションの検出、定量化および特性評価を可能にしました。16

初期の分析方法は、非常に小さい分子(分子量<3,000)や非常に大きな分子(分子量>10,000,000)で作業する場合に問題がありました。これらの新しいソフトウェアプログラムの導入により、分子量の制限がなくなり、例えば、小さなペプチドの会合やウイルスの不均一性・凝集に関する有効な情報を得ることが可能になりました。

わずか数年後には、新たなAUCソフトウェア・ソリューションの一部は、様々な第一原理法を用いて取得されたデータなど、いくつかの実験から組み合わせたデータを解析することができるようになりました。さらに、熱力学的第一原理に基づく他のプログラムが沈降平衡状態(sedimentation equilibrium, SE)データの分析に用いることができました。17,18

AUCとバイオファーマの研究

今世紀最初の20年の間に、AUCは、多くの新しい用途および産業に有用であることが証明されています。(例:化粧品および生物学的に不活性な造影剤に使用されるようなナノ製品)19

しかし、AUCの最も重要で広範な用途の1つは、成長を続けるバイオ医薬品の分野です。

新しい分析ソフトウェアプログラムと組み合わせて、AUCはバイオ医薬品科学者が薬物の包括的凝集を評価し、その単量体型の高次構造の異質性と一貫性を特徴付け、溶液中の生物物理学的特性を測定するための強力なツールとなっています。11

製剤緩衝液中のバイオ医薬サンプル内にある凝集物の量とサイズ分布に関する独立した情報を、方法開発なしで提供するだけでなく、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)とは異なる原理を使用するため、AUCはSECによる分析結果の不完全な部分を補完し、製剤開発及び製造へのリスクを回避することができます。

さらに、AUCは機能するSEC法が実施される前に、医薬品開発の初期段階でこの情報を提供することが可能です。その後、製剤緩衝液のサンプルとSEC移動相が異なる場合であっても、使用されるSEC法が意味のある凝集の情報を確実に提供します。11

粒子サイズに関しては、AUCはSECよりはるかに汎用性があるため、小型ペプチドからウイルス、ウイルス様粒子(VLPS)、遺伝子療法のドラッグデリバリーシステムに使用されるナノ粒子などのような、小さなペプチドから大きなタンパク質までバイオ医薬品の特性を明らかにするために使用できます。

これらの革新的な新しい療法の多くは、膵臓、乳房、結腸、肺、前立腺などの最も一般的で致死的な癌を克服することに注力しています。ただし、これはまだ始まったばかりです。

同様に興味深いのは、アレルギーから肥満までのすべての高分子ベースの治療と同様に、すでにゴールドスタンダードと考えられている抗体ベースの療法、糖鎖ワクチンおよびDNAベースの治療システムに対するAUCのアプリケーションです。20

現代の世界にAUC技術の重要性を理解いただくことは簡単ではありません。

今日、ハードウェア(スベドベリ、ピッケル、ベックマン他に感謝)とソフトウェア(ラム、藤田、シュックと彼の同僚に感謝)の強力な組み合わせによって、AUCは21世紀の高分子研究には欠かせないツールになってきました。

残念なことに、アーノルド・ベックマンは2004年に104歳でこの世を去ったため、この強力なエンジニアリングとコンピュータ・プログラミングの融合による貢献について、最初のたった数年間しか見ることができませんでした。

一方、ハワード・シャクマンは彼のキャリアと人生の多くを捧げた技術の最新の進化を、より多く見届けることができました。彼がこの世から去ったのは2016年、97歳の時でした。

偶然にも、ベックマン・コールター ライフサイエンスが最新の分析用超遠心機「Optima AUC」を世に送り出したのと同じ年でした。この装置を、シャクマンはきっと非常に気に入ったことでしょう。

Optima AUC:新しいスタンダードとなる

近年、ベックマン・コールター ライフサイエンスは、次世代のOptima AUCを導入することにより、AUCをタンパク質研究と高分子の特性解析の中核に戻しました。

スキャン速度が速く、波長精度が向上し、データ分解能が向上したOptima AUCは、各測定からより正確な答えを科学者に提供することが可能です。ロータの回転数は最大60,000 rpmで、Optima AUCのデータ収集速度は、ProteomeLab XL-A/XL-Iよりも約5倍速く、ラジアルスキャン(回転半径方向のスキャン)の分解能は3倍高いため、約15倍多くのデータを得ることができます。

Optima AUCは現在、紫外可視吸光測定計/レイリー干渉計を提供しており、最大3つの独立した同時検出システムを取り付けることができます。しかし、ProteomeLab XL-A / XL-Iと異なり、すべてのシステム光学計がローターチャンバーの外に設置されているため、Optima AUCのメンテナンスは簡単に行えます。

15インチ(38cm)タッチパネルにより遠心実験の進捗を表示することができます。リモートモニタリング機能により、研究者は、事実上どの場所からでも実験の設定、監視、データの抽出ができます。

Optima AUCは、 ProteomeLab XL-A/XL-I で用いられるものと同じセルやロータ、ソフトウェアとの互換性があり、画像分解能とセルごとにキャプチャ可能な干渉縞の数に関して先駆機種の他の機能を凌駕します。

ベックマン・コールター ライフサイエンスから発売しているOptima AUC

我々は現在「ハイパーコネクトの世界」に生きています。そのため、新しいOptima AUCによって、研究者がインターネットアクセスを通して世界のどこからでも実験をモニターできるようになることは、驚くことではありません。

確かに、AUCは無限の可能性を秘めているのかもしれません。


4 Schuck P. Sedimentation velocity analytical ultracentrifugation: discrete species and size-distributions of macromolecules and particles. Boca Raton (FL): CRC Press; 2016.
15 Berkowitz SA, Philo JS. Characterizing biopharmaceuticals using analytical ultracentrifugation. In: Houde DJ, Berkowitz SA, editors. Biophysical characterization of proteins in developing pharmaceuticals. Waltham (MA): Elsevier; 2015.
16 Laue T. Analytical ultracentrifugation: a powerful ‘new’ technology in drug discovery. Drug Discovery Today: Technologies 2004;1(3):309-315.
17 Johnson ML, Correia JJ, Yphantis DA, et al. Analysis of data from the analytical ultracentrifuge by nonlinear least-squares techniques. Biophys J 1981;36:575–588.
18 Vistica J, Dam J, Balbo A, et al. Sedimentation equilibrium analysis of protein interactions with global implicit mass conservation constraints and systematic noise decomposition. Anal Biochem 2004;326:234–256.
19 Kaur IP, Kakkar V, Deol PK, et al. Issues and concerns in nanotech product development and its commercialization. J Control Release 2014;193:51-62.