籔井教授の講義シリーズ
第五話:ロータの選択

 伊藤  籔井教授の講義シリーズも、今日の第五話でいよいよ最終回を迎えます。籔井教授には、ご自分の研究室をもたれてからの25年にわたる研究生活の中でベックマン・コールター社の遠心機、高速冷却遠心機、超遠心機とそのロータを多数お使いいただいたとうかがっています。その経験から、実験に当たってどのようにロータを選択するかという点に焦点をあてて、お話いただけないでしょうか?

籔井教授 伊藤さんの注文はいつも難しいね。どうして難しいかと言うと、ロータの選択についても、ベックマン・コールター社のカタログの中にあるベックマン博士の一口メモにちゃんと書いてあるからです。

 伊藤  一口メモにはないような実際の経験に基づいた教授の...

籔井教授 それならこうしましょう。選択がベストだったかどうかではなく、私が自分の経験したことに基づいて話しましょう。

 伊藤  教授がフロア型超遠心機用のロータが何もなく、これから1つだけ購入されるとしたら、何を選ばれますか?

籔井教授 以前なら難しかったけれども、今は、簡単だ。スウィングロータ SW 32 Tiに尽きます。

SW 32 Tiロータは、トップローディングができる革命的なスウィングロータです。これには感激しました。なにしろ、スイングロータで気を使うのは、バケットをきちんとかけるところです。それまで、SW 32 Tiと同じ容量の遠心ができるスウィングロータ SW 28を使っていましたが、片がけにならないかとか、ロータをチャンバーにセットしたとき外れていないかどうか手鏡で毎回確認していましたから。

 伊藤  おっしゃるとおり、スウィングロータ SW 32 Tiは、大変ご好評をいただいている弊社の自慢のロータです。でも、選定理由はトップローディングだけですか?

籔井教授 失礼しました。いくらなんでも説明不足ですね。私は、ウイルスを感染させた培養細胞や(糞便などの)臨床検体からウイルス粒子を濃縮、精製し、回収するというほとんど単一の目的のために、数え切れないほどフロア型の超遠心機を使ってきました。しかし、その経験を振りかえってみると、ざっと6つくらいに要約されます。

超遠心の経験を要約すると...

遠心力として15万G程度がもっとも使用頻度が高く、また、使いやすい。

容量としてチューブあたり30 mL程度がもっとも使用頻度が高く、また、使いやすい。

遠心時間は1.5-2時間に収めると効率的である。

肉薄のオープントップのチューブがもっとも使いやすく、しかも低価格である。

実験の8割は単純なペレッティングであり、2割弱がショ糖密度勾配速度ゾーン遠心法またはその変形のショ糖クッション遠心、1%が塩化セシウム平衡密度勾配遠心である。

精製がワンステップ進むごとに、扱う容量が激減する。

そこで、ロータのポジションマップを見てください。縦軸がチューブ1本あたりの公称容量で横軸が最大遠心力です。スウィングロータ SW 32 Tiの位置は、40 mLで18万Gあたりです。6本フルロードしたときの実容量が200 mL超となり、これを15万Gで回転させられます。ウイルス粒子のペレッティングには十分ですし、スウィングロータですので、密度勾配遠心には最適です。

 伊藤  教授がスウィングロータ SW 32 Tiを購入されたのはごく最近で、長いこと固定角ロータ Type 45 Tiをお使いになっていたとお伺いしましたが。

籔井教授 そうです。最初に購入したロータが、固定角ロータ Type 45 Tiとスウィングロータ SW 41 Tiでした。この二つのロータを使って、ロタウイルスを感染させた培養細胞からウイルス精製を行ってきました。ロータのポジションマップで固定角ロータ Type 45 Tiの位置を見てください。このロータがいかに他を超越しているかが一目瞭然です。

 伊藤  最高回転数である45,000 rpmでの相対的遠心力が20万Gを超え、6本のバケットにフルロードすれば560 mLを扱えますので、すばらしい性能ですね。

 早斐  1回の遠心で回せる容量と相対遠心力、したがって、ペレッティングに要する遠心時間という点で比較すると、固定角ロータ Type 45 Tiがスウィングロータ SW 32 Tiよりずっと優れているのではないでしょうか。

籔井教授 ところが理論と実際には違いがあるのです。固定角ロータ Type 45 Tiのカタログ上の性能は突出していますが、私はPCボトルキャップアセンブリを使って、このロータを45,000 rpmで回してはいけない。急ぐときは36,000 rpm(相対遠心力=15万G)まではいいけれども、ルーチンには30,000 rpm(相対遠心力=10万G)で回すように指導しています。

また、公称容量と実際の容量との違いにも注意を払う必要があります。Type 45 Tiロータの場合、どんな遠心チューブを使うかにもよりますが、使い勝手のいいPCボトルキャップアセンブリですと1本あたり50 mLくらいに押さえておくのが無難です。したがって、6本のバケットにフルロードしても実容量は300 mLです。これに対して、スウィングロータ SW 32 Tiの6本のフルロードでの実容量は210 mLです。ちなみにSW 32 Tiを30,000 rpmで回しますと、相対遠心力は15万Gになり、固定角ロータ Type 45 Tiの36,000 rpmに匹敵します。

 早斐  ということは、どちらのロータを使っても、ロタウイルス粒子をペレットにする場合、2時間も遠心すれば十分。相対遠心力の違いから考えて、SW 32 Tiでは、1時間半でも十分かしら。容量もType 45 Tiが300 mL、SW 32 Tiが210 mLで似たようなもの。だから、2つのロータの性能にみかけほどの違いはないということなのですね。

 伊藤  失礼ですが、二点指摘させてください。第一は、弊社のカタログでは、PCボトルキャップアセンブリは、固定角ロータ Type 45 Tiを使った場合、最高回転数の45,000 rpmでご使用いただけることが記載されております。第二に、ペレティングに関するロータの互換性にあたっては、k-ファクタというものがあります。

籔井教授 第一の点についてですが、カタログには何回使えるかは書いていないでしょう。回転数で、つまり遠心チューブにかかる相対遠心力によって生じるストレスの違いから、PCボトルキャップアセンブリの寿命が大きく違ってきます。経験では、40,000 rpm(相対遠心力=19万G)で1時間半の遠心を数回繰り返すと、PCボトルにわずかなクラックが入ってきます。わずかでもそのような変化があれば、廃棄しなければなりません。36,000 rpm(相対遠心力=15万G)でも10回を越えるあたりからクラックが入るボトルが出てきます。もっと困るのは、黒い中ブタ(ノリルプラグ)の真ん中の部分が遠心中に抜け落ちることがよく起こります。中ブタ全体が壊れるのではなく、中心部分が丸く抜け落ちるのです。また、O-リング(ネオプレン・O-リング)が切れることもしばしば起こります。

中ブタ

PCボトルキャップアセンブリの構成

 早斐  事故になるのですか?

籔井教授 なりません。中ブタやO-リングの破損が原因で遠心機の事故になったことはありません。こういうことは10回以上起こりましたが、すべて、遠心そのものは正常に終了しました。ただ、中ブタが抜けると中ブタの破片が本来ペレットのできる位置に行くので、せっかくのペレットが回収できません。PCボトルのクラックは使用前に注意深く観察すれば分かりますが、中ブタの抜け落ちとO-リングの破断は予見できません。たまりかねた大学院生の一人が使用回数を数え始め、10回使用したところで交換すると言うルールを作りました。これは大変です。O-リングや中ブタを1つずつ小さなビニールの袋に入れ、その袋の表面に使用日を書いておかなければならないので、とても面倒なのです。Type 45 Tiロータを30,000 rpmで使用したときの相対遠心力は10万Gを少し超えた程度ですが、この回転数ではPCボトルのクラックは経験したことがありません。

 早斐  スウィングロータ SW 32 Tiでは、最高回転数で回しても遠心チューブに問題は起きないのですか?

籔井教授 肉薄のオープントップのPPチューブ(ポリポロピレン・チューブ)ではまったく問題はありません。UC チューブ(ウルトラクリア・チューブ)では塩化セシウムの平衡密度勾配遠心(たとえば28,000 rpmで24時間)後に、チューブをよく観察すると縦の筋(スジ)のようなものが見えますので、1回限りの使用にしています。チューブ自体の価格もPCボトルの10分の1くらいで、数百円です。

 伊藤  度々すみません。塩化セシウムという密度が高い溶液での超遠心の話がでましたので、高密度のサンプルを遠心する場合には、ロータの最高回転数に制限がかかることに言及させてください。ベックマン博士の一口メモにもございますが、フロア型超遠心機用の固定角ロータやスウィングロータの場合ですと、溶液の密度が1.2 g/mLを超えるときには、この値を溶液の平均密度で割った平方根にロータの最高回転数をかけたものが、新たに許容される最高回転数になります。

たとえば、ロタウイルス粒子の塩化セシウムによる平衡密度勾配遠心を行う場合、溶液の平均密度が1.4 g/mLだとすれば、1.2÷1.4の平方根をとって0.92。スウィングロータ SW 32 Tiの最高回転数は32,000 rpmですので、このロータで平衡密度勾配遠心に適用される最高回転数は29,000 rpmになります。

籔井教授 伊藤さんが指摘された第二の点である、k-ファクタについてお話しましょう。k-ファクタというのは、簡単に言えば、単に最高回転数だけでなく、ロータにチューブを入れたときの最大半径と最小半径で決まる「ロータの形状」を加味したロータの性能を比較する指標のことです。k-ファクタの値は、回転数が大きいほど小さく、ロータの最大半径と最小半径の比が小さいほど(スウィングロータでは遠心チューブの長さになるので最大になり、ヴァーティカルロータでは遠心チューブの口径になるので最小になる)小さくなります。要するに、k-ファクタの値が小さいほどペレッティングに優れた性能を持つロータというわけです。

これが便利なのは、2つのロータ1および2のk-ファクタの値をk1、k2とし、ロータ1でペレッティングにt1時間かかるとき、ロータ2でt2時間かかるとすれば、この間に、

という関係が成立することです。計算式はさておき、とても便利なのが、ベックマン・コールター社がウェブサイト上で提供している、run time conversionです。

急ぐときには、固定角ロータ Type 45 Tiで36,000 rpm、90分でロタウイルスをペレットにするというお話をしました。そこで、このソフトを使うと、スウィングロータ SW 32 Tiを使って32,000 rpmで回転させると、何分回せばよいかがすぐに分かります。答えは、89分で達成できることを示しています。つまり、固定角ロータ Type 45 Tiで36,000 rpmで90分回すのと、スウィングロータ SW 32 Tiで32,000 rpmで90分回すのとは等価なのです。

このソフトウェアが便利なのは、超遠心機と高速冷却遠心機の間でも使えるからです。私たちは、感染させた培養液からロタウイルスをペレットにして回収するのに、原則的には固定角ロータ Type 45 Tiを使って、30,000 rpmで2時間の条件を使っています。これは、PCボトルキャップアセンブリが長持ちするからです。しかし、処理すべき容量が何百mLにもなるとき時には高速冷却遠心機を使い、固定角ロータ JA-14で最高回転数の14,000 rpmで一晩(14-16時間)遠心してロタウイルスをペレットにしてきました。JA-14ロータの公称容量は250 mL x 6 = 1,500 mLですが、私たちは、回転中の液面がキャップにつかないようにするため、1回に回す容量を150 mL x 6 = 900 mLにしています。それでも、ものすごい処理能力です。ところで、経験に基づくこの遠心条件が正しいかどうか、run time conversionで確かめてみましょう。

結果は、708分、つまり約12時間の遠心で目的を達成することができるとわかり、私の経験に基づく遠心条件も合格ということでしょう。

 早斐  市販の50 mLのコニカルチューブが使える、高速冷却遠心機用の固定角ロータにJA.14.50があり、いつも細胞残渣を除去するのに使っていますよね。あのロータは16本がけだから、50 mL x 16 = 800 mLも処理できるわよ。試しに、run time conversionに入れてみると、最高回転数の14,000 rpmで回せば、k-ファクタの値は787、run timeは316分という答えが返ってきます。つまり5時間半回せばいいということになりますね。でもこの遠心条件で本当にロタウイルスをペレットにできるのかしら?

籔井教授 はてさて、どんなものかな。でもそれ以前に、市販の50 mLのコニカルチューブが遠心力に耐えられずに破損するでしょうね。

 伊藤  そろそろこの講義も終わりの時間が近づいてきましたので、固定角ロータとスウィングロータをどう使い分けるかというところをまとめてください。

籔井教授 固定角ロータとスウィングロータの一番の違いは、ペレッティング中のウイルス粒子の動きだよ。スウィングロータでも遠心チューブの壁面を伝わって落ちていくウイルス粒子があるわけだけれども、固定角ロータではウイルス粒子が遠心チューブの壁面にたたきつけられるからね。その結果、スウィングロータではペレットが遠心チューブの底にきれいにできるけれども、固定角ロータでは底に近い斜面にペレットができるね。でもこれも悪い話ばかりではなく、遠心後に上清を吸引するとき、最後は遠心チューブの底にパスツールピペットの先を持っていけばいいからね。

固定角ロータでのペレッティング中の粒子の動き

スウィングロータでのペレッティング中の粒子の動き

ところで早斐さん、固定角ロータとスウィングロータの利点については、ベックマン博士も言及していますよ。

 早斐  それぞれのロータの利点いついてベックマン博士のポイントを簡単にまとめました。

固定角ロータの利点は

より大きな回転数で使用できるため、大きな遠心力を利用できる(同じ容量を遠心するのであれば、固定角ロータの方がより大きな回転数で回せる)。

スウィングロータと比べて、同容量であっても沈降経路長が短いため短時間で分離できる。

サンプル本数が多くかけられる。

取扱いが容易である。

スクリューキャップ式のPCボトルアセンブリやキャップなしで使用できる肉厚のオープントップチューブが選択できる。

スウィングロータ利点は

沈降経路長が長いので、密度勾配遠心の分離能がよい。

粒子が遠心力方向にダイレクトに沈降してゆくので、サンプルのバンドが乱れない。

肉薄のオープントップチューブ(PPチューブ、UCチューブ)がキャップなしで使用できる。

チューブの底に高濃度のスクロースをクッションとして敷いておくと、 沈降したウイルス粒子が潰れるのを防ぐことができる。

減速中であっても常にチューブのトップから底の方向に重力が加わるため、遠心停止時にサンプル粒子の舞上がりが最小限になる。

結局のところ、単純なペレッティングには固定角ロータを使い、密度勾配遠心ではスウィングロータを使え、ということでしょうか。

籔井教授 そのとおり。そして、処理容量が多いのが固定角ロータで、容量が小さくなった精製の仕上げにスウィングロータを使うということになります。まさに、この理由で、私が最初に購入したロータが、固定角ロータ Type 45 Tiとスウィングロータ SW 41Tiでした。そして、この二つのロータの使用頻度が群を抜いて高かったですね。

 早斐  でも、スウィングロータ SW 32 Tiの出現で、教授の人生観が変わったのですね。確か、ドリーム・ロータとおしゃっていましたね。

 伊藤  そうらしいですね。ところで、藪井教授、早斐さんがまとめてくれたベックマン博士のポイントで抜けている事項、あるいは付け加えておきたい事項はありますか?

籔井教授 大切な点が一つあります。それは、固定角ロータとスウィングロータで、加速と減速にかかる時間に大きな違いがあることです。スウィングロータの方がずっと時間がかかります。私は、超遠心機を使い始める大学院生には、必ず自分自身で使い方の説明をしてきましたが、もっとも大切なこととして、次の三点を強調しています。

超遠心機を運転するときには

固定角ロータでもオートスタートを使わずに、必ず、真空が最低のところまで引いたことを確認してから、スタートボタンを押すこと。

ロータの回転速度がセットした速度に達するまで超遠心機を離れてはいけない。

ロータの停止ボタンを押したら、ロータが完全に停止するまで超遠心機を離れてはいけない。

超遠心機の事故のほとんどが、ロータがセットした最高回転数に達するまでの間に起こると言われています。ですから万一の事故に備えて、そのとき何が起こったのか「目撃証言」ができることがこの上なく重要です。また、遠心中の溶液のリークのために、バケットの中の溶液量に違いがあることが遠心終了後に見つかるなど、大きな事故に至らないまでも何かしらのインシデントが起こることがあります。そのとき、設定回転数から停止に至るまでに何か異常の発生を疑わせることが起こらなかったか、証言できることが、その後の対処に重要です。ただ、幸いなことに99%何も起こらないので、この加速と減速の時間は実に退屈で逃げ出したくなるのです。それで、このじっと我慢する時間が長いスウィングロータは、運用上の短所と言っていいでしょう。

本当に、最後に一言。大事なアドバイスです。特にスウィングロータでは、高濃度の塩化セシウム溶液を使う平衡密度勾配遠心を行いますので、遠心終了後に

「スウィングロータのバケットの底に塩を残すな」

ということ、つまり、バケットを必ず洗浄し倒立させて乾燥させておくことを強調しておきます。これは、アングルロータに比べスウィングロータのバケットの底が薄く、使用後に残った塩によるピンホールのような腐食が発生するのを避けるためです。

 伊藤  それでは、教授に、いつかそのエピソードをお聞きする日があることを期待して、この講義シリーズを閉じることとします。
どうもありがとうございました。