籔井教授の講義シリーズ「超遠心機に振り回された研究を回顧して」 籔井教授の講義シリーズ「超遠心機に振り回された研究を回顧して」

東北のとある町の郊外に引退された薮井逸(やぶい・はやる)教授のご自宅で、弊社社員 伊藤超(いとう・すぐる)とウイルスの研究を始めたばかりの大学院生 早斐真理(はやい・まり)が聞き手となり、籔井教授の講義を伺うというセミフィクショナルな対談です。

籔井教授「超遠心機に振り回された研究を回顧して」というのは、大げさだと思うかもしれませんが事実です。私の専門はロタウイルスの分子疫学でした。患者さんに由来するウイルス株をあつかいます。超遠心機は不可欠だったのです。
母校の微生物学の教授になって、まずどうしようかと悩んだのが、超遠心機をどうやって調達するかという難問でした。当時、校費と言われた教室に配分される予算では、とても購入できるような額ではありませんでした。たとえ、超遠心機本体をなんとかしても、ロータがなければ使えません。超遠心機用のロータは、これもまた高額です。当時学部長だった恩師の病理学の教授に相談にのっていただく一方、ベックマンの営業担当者を拝み倒し、艱難辛苦(かんなんしんく)の末、一番安かったL60が使えるようになりました。(図1-1)

10年後に、別の地方大学の分子疫学の教授に転任する際に、まず、チェックしたのが専用の超遠心機が使えるかどうかです。1台は、病原体はお断り。もう1台はP3施設の中。いずれも、違うフロアです。愛用のL60とロータ類をすべて新任地に移管しました。15年後の退職に際し、このL60とロータ類は、ロタウイルスの分子疫学を引き継ぐべく1年間研修した助教とともに、別の大学に移りました(図1-2)。超遠心機は、私の教授としての通算25年の研究生活よりもなお長い寿命を保って現役で働いています。言葉の文字どおりの原義で「有難い」ことです。これくらい寿命の長い身の回りの機器というのは、電子天秤くらいでしょうか。もっとも超遠心機と電子天秤をはかりにかけるというのも、重さも値段も桁違いですね。

 伊藤  冗談はほどほどにして本題に進んでください。

籔井教授 いや、超遠心機とともにぐるぐると回ってきた私の研究生活を通しての実感ですから、まじめな話です。

図1-1 籔井教授が愛用したベックマンの超遠心機L60

図1-2 籔井教授が使ったロータ

著者紹介

中込 治 先生
秋田大学名誉教授、長崎大学名誉教授

弊社の情報誌Progressoの2016年の冬号(19号)に長崎大学の中込治教授のインタビュー記事「超遠心法によるウイルス精製の基礎」を掲載しました。弊社ではインタビュー記事の続編として、ウイルス研究や超遠心機を使う研究をはじめたばかりの学部の学生さんや修士・博士課程の大学院生の方を主な対象にして、プロトコールやコツに、以前の取材でお聞かせいただいたけれども記事にはならなかったような研究上のエピソードなども加味して、もう少し幅広く語っていただけないかと考えました。そこで、中込教授が定年退職される間際の2018年3月に研究室へご相談に伺ったところ、退職後は籔井逸(やぶい・はやる)のペンネームで物書きをするとのお話でした。

なお、超遠心機やその付属品である弊社製品に関しては、弊社内で正確性をチェックさせていただきましたが、この記事のプロトコールやコツに従って行われる実験の結果に関して、弊社および本文の著者である中込治名誉教授がその責を負うものではありません