Vol.56 遠心機ロータは常に最高回転数で遠心可能でしょうか?(その3)

皆様 こんにちは

遠心分離に使用する遠心ロータは、それぞれ個別に最高回転数が決まっています。前回のVol.55「遠心機ロータは常に最高回転数で遠心可能でしょうか?(その2)」では、特殊溶液たとえばセシウムクロライド溶液を使用する場合の最高回転数制限についてお話しいたしました。

セシウムクロライド48%重量濃度でサンプルを調整すると、その密度は 1.55 g/mL、固定角ロータ Type 100 Ti の許容回転数は 51,000 rpm となり、なんと最高回転数の半分まで減速する必要がありました。ロータのパフォーマンスを表す κファクター(ベックマン博士一口メモ Vol.18「遠心条件の換算はどうするの?-κファクタの意味とその利用法 その1 -」 および Vol.19「遠心沈降時間は、どのように算出しますか?-κファクタの意味とその利用法 その2 -」 参照)で両条件を比較すると、遠心時間が約4倍も差がでるのでしたね。これではせっかくの高性能超遠心機が泣いてしまいます。

そこでベックマン博士は特別な遠心手法を思いつきました。
それはESPです。ESPEfficient Sedimentation Program の略称です。「効率の良い遠心沈降プログラム」と訳せるでしょう。ベックマン・コールターが発案した高効率な超遠心分離テクニックの総称であり、これまでに数多くの手法が用意されています。

ESPを使用した場合と前号でご紹介しました遠心開始時から安全速度(減速状態)で遠心分離した場合の遠心分離時間を比較します。サンプルはプラスミドDNAです。

表1 遠心時間の比較
ロータ
(チューブ)
初めから減速で遠心した際の
遠心時間
(回転数)
ESP メソッドによる
遠心時間
短縮時間
(短縮率)
Type 90 Ti
(6.5 mL チューブ)
8 hr
(65,000 rpm)
6 hr 2 hr
(25%OFF)
Type 80 Ti
(13.5 mL チューブ)
30 hr
(48,000 rpm)
16 hr 14 hr
(47%OFF)
Type 70 Ti
(38.5 mL チューブ)
40 hr
(42,500 rpm)
20 hr 20 hr
(50%OFF)

Beckman Coulter Applications Data DS-755Aより抜粋

表1のとおり、いずれの遠心も大幅に遠心時間を短縮します。例えば Type 70 Ti の場合ですと遠心時間は 50%まで短縮できます。前号でセシウムクロライドが再結晶化した場合にチタニウム合金で製造された水平ロータバケットの底が破損した例(写真1)をご紹介しましたが、ESPメソッドによる遠心では、回転数を減速した状態でスタートしないでもセシウムクロライドの再結晶発生を防ぎつつ(かつ水平ロータバケットの破損リスクを回避しつつ)遠心時間を短縮できます。なぜでしょう?ポイントは“the stepped-speed reduction method“にあります。

“the stepped-speed reduction method“とは図1のように遠心溶媒(たとえばセシウムクロライド)が遠心力により再結晶が始まる前に遠心回転数を安全領域まで減速します。「再結晶化する前に減速」を繰り返しご希望の遠心分離が終了するまで継続する遠心メソッドです。これらのプロトコールを遠心前にシミュレーションを行い、その遠心シミュレーションパラメータどおりに遠心を実行できる遠心機が Optima XPN シリーズです。