2019.09

第6回 超遠心分析による分子間相互作用解析

野田 勝紀 1,2, クラユヒナ エレナ 1,2, 内山 進 1

1大阪大学大学院 工学研究科
2株式会社ユー・メディコ

はじめに

第4回までに、超遠心分析の基本測定原理、沈降速度法(SV-AUC)と沈降平衡法(SE-AUC)の解析方法を紹介しました。第5回では、超遠心分析によるバイオ医薬品の凝集体評価を紹介しました。これまで、第4回のSE-AUCの一部を除くと、溶液中での分子間相互作用解析についてはほとんど紹介していません。第6回では、溶液中で分子同士が相互作用し、平衡状態にある場合の超遠心分析の解析方法と解析例をご紹介します。従来、超遠心分析による相互作用解析は、SE-AUCの利用が一般的でした。近年は、第3回でご紹介したC(s)解析の発展により、SV-AUCを用いた分子間相互作用の解析が可能となり、しばしば利用されています。

今回は、SE-AUCによる分子間相互作用解析、および、SV-AUCによる解析例をご紹介します。

沈降平衡法(SE-AUC)による分子間相互作用解析

第4回の記述の通り、SE-AUCでは、数千から数万rpmの比較的低い回転数で測定を行い、セル内に形成される分子の濃度勾配を観察します。SE-AUCでは、溶液中の分子にかかる遠心力と拡散力の釣り合いから導かれる濃度勾配の式(式1)が導かれます。

rはローターの中心からの距離、C(r)はrの位置における溶液の濃度、vは溶質の偏比容、Mは溶質の分子量、ρは溶媒の密度、ωは角速度、Rは気体定数、Tは測定温度です。

ここで、式2のように、溶液中で、分子Aと分子Bが1:1で相互作用し、ABという複合体を形成し、その複合体形成が濃度依存的に起こる系を想定します。

この時、解離定数KDは溶液中のAの濃度[A]、Bの濃度[B]、AB複合体の濃度[AB]を用いて、式3で表されます。

溶液中に含まれるA、B、AB全てについて、式1の濃度勾配の式が成立するので、溶液中に含まれるそれぞれの分子についての濃度勾配を表した式の和となる式4が成立します。

この式を、吸光度で表した式に変換すると、式5になります。εはそれぞれの分子の測定波長でのモル吸光係数を表します。

式5と式3を合わせた式を用いて、実測した濃度勾配のデータに対して、非線形フィッティングを行うことで、解離定数KDを算出できます。

ただし、この非線形フィッティングを行う際には、式2のようなモデル式の立式が必要になります。立式には、化学量論の決定が必要になります。例として、抗体と抗原の相互作用解析についてご紹介します。図1は、抗原、抗体の混合溶液の濃度勾配を示しています1 。抗体と抗原を等モル混合した溶液について回転数6,000、8,000及び 12,000 rpmにおける平衡時の濃度勾配を取得し、2種類の相互作用モデルを用いてグローバル解析を行いました。残差の分散と偏りから、1:1相互作用モデルは不適切であり、一方、抗体:抗原1:2相互作用モデルが適切であることが分かります。このようにSE-AUCのフィッティング結果から、化学量論の推定が可能です。ただ、相互作用モデルが複雑な場合や多成分系の場合、結果の信頼性が下がることから化学量論の決定は、SV-AUCや未変性状態の質量分析などその他の方法1,2で行うことをお勧めします。なお、本解析例では、抗体:抗原1:2相互作用モデルを用いたフィッティングから、KD = 2.9 µMと算出されました。

沈降速度法(SV-AUC)による分子間相互作用解析

SV-AUCの利点の一つは、溶液を希釈せず測定可能であることです。また第2回、第3回でご紹介したC(s)解析を行うことで、会合体の分布の濃度依存を明らかにできます。この特徴を生かして、濃度依存的に解離会合する系の相互作用解析にSV-AUCを使用することで、自己会合やヘテロな会合の解離定数KDを推定可能です3。また、SE-AUCと異なり、会合体に加え、結合していないフリーの分子についても分布が明らかになるため、比較的簡単な相互作用の系であれば、化学量論も推定可能です。

ここでは、式6で表せるような自己会合で2量体を形成する系について、ご紹介します。

この時、解離定数KDは溶液中のAの濃度[A]、2量体の濃度[2A]を用いて、

と表されることから、2量体の濃度[2A]は、解離定数KDを用いて式7のように表せます。

次に、異なる濃度でSV-AUCを実施し、各濃度での沈降係数分布を得ることによりそれぞれの濃度での会合の様子を明らかにします。各濃度の沈降係数の分布から、重量平均沈降係数swを計算します。swは、溶液中のAの濃度[A]、2量体の濃度[2A]、溶液の総濃度[total]とAの沈降係数sA、2量体の沈降係数s2A、Aの測定波長でのモル吸光係数εAを用いて式8のように表せます。

式7と式8を用いると、重量平均沈降係数swは、解離定数KDを含む式9で表されます。

横軸に濃度、縦軸にswをプロットし、式9を用いて非線形フィッティングすることで、KDを求めることができます。

以下に、セマフォリン6A(Sema6A)受容体結合断片Sema6ASPの自己会合の解離定数と、toll like receptor 9(TLR9)とDNA複合体(TLR9-DNA)の二量体化の解離定数を調べるために行った相互作用解析の例を示します4,5

図2(A)にSema6ASPの異なる濃度での沈降係数分布を示します。この結果より、観測されるSema6ASPは、濃度依存的に2量体を形成することが分かります。さらに、異なる濃度3点のSV-AUC解析を行い、横軸に濃度、縦軸にswをプロットし、式9のモデル式を用いてフィッティングを行った結果を図(B)に示します。ここでは、良好なフィッティング結果が得られ、KD値として3.5 µMが得られました。

また、図3(A)にTLR9-DNA複合体の異なる濃度についての沈降係数分布を示します。この結果より、TLR9-DNA複合体は、濃度依存的に2量体を形成することが明らかになりました。異なる濃度2点の結果を加え、横軸に濃度、縦軸にswをプロットし、フィッティングを行うことで、TLR9-DNA複合体の二量体化時のKDは、20 µMと算出されました。

最後に、SE-AUCでご説明したような分子Aと分子Bが1:1で相互作用し、複合体ABを形成する場合のSV-AUCによる解析の際に使用する非線形フィッティングの式をご紹介します。このような異なる分子同士での複合体形成の場合、式8は、以下のように表されます。

ここで、sBはBの沈降係数、sABは複合体ABの沈降係数、εBは、Bの測定波長でのモル吸光係数、[total]A、[total]Bは、A、Bを混合した際の初期濃度となります。式10に式3を用いると式10で、重量平均沈降係数swは表されます。

同様に横軸に濃度、縦軸にswをプロットし、式11を用いて非線形フィッティングすることで、異なる分子間の相互作用時の解離定数KDを求めることができます。

おわりに

今回は、沈降平衡法、沈降速度法による分子間相互作用解析についてご紹介しました。他の分析法と比べて、高濃度溶液の測定が可能な超遠心分析を用いた分子間相互作用解析は、解離定数が10 µM以上の比較的弱い相互作用解析にも適用可能であり、分子間相互作用解析においても非常に有用な方法です。


参考文献

1. Oda M, Uchiyama S, Robinson CV, Fukui K, Kobayashi Y, Azuma T. Regional and segmental flexibility of antibodies in interaction with antigens of different size. FEBS J. 2006 Apr;273(7):1476-87.

2. Noda M, Uchiyama S, McKay AR, Morimoto A, Misawa S, Yoshida A, Shimahara H, Takinowaki H, Nakamura S, Kobayashi Y, Matsunaga S, Ohkubo T, Robinson CV, Fukui K. Assembly states of the nucleosome assembly protein 1 (NAP-1) revealed by sedimentation velocity and non-denaturing MS. Biochem J. 2011 May 15;436(1):101-12.

3. Schuck P. On the analysis of protein self-association by sedimentation velocity analytical ultracentrifugation. Anal Biochem. 2003 Sep 1;320(1):104-24.

4. Nogi T, Yasui N, Mihara E, Matsunaga Y, Noda M, Yamashita N, Toyofuku T, Uchiyama S, Goshima Y, Kumanogoh A, Takagi J. Structural basis for semaphorin signalling through the plexin receptor. Nature 2010;467(7319):1123-1127.

5. Ohto U, Shibata T, Tanji H, Ishida H, Krayukhina E, Uchiyama S, Miyake K, Shimizu T. Structural basis of CpG and inhibitory DNA recognition by Toll-like receptor 9. Nature 2015;520(7549):702-705.