2019.07

第5回 超遠心分析によるバイオ医薬品凝集体評価

野田 勝紀 1,2, クラユヒナ エレナ 1,2, 内山 進 1

1大阪大学大学院 工学研究科
2株式会社ユー・メディコ

はじめに

第4回までに、超遠心分析の基本測定原理、沈降速度法、沈降平衡法の解析方法の紹介を行いました。第5回では、バイオ医薬品の凝集体評価における超遠心分析の位置づけと意義についてご紹介します。

近年、製薬業界では、バイオ医薬品の開発が盛んに行われています。2017年の世界の医薬品売上トップ10中、7品目がタンパク質を主成分とするバイオ医薬品となっています。また。2018年のノーベル医学生理学賞を本庶佑先生が受賞されたことで、話題となったPD-1を標的とする抗体医薬品も、オプシーボを代表として、次々と開発、上市されています。こうしたバイオ医薬品開発の隆盛はしばらく続くと予想され、加えて、先発して開発されたバイオ医薬品の特許の失効に伴い、バイオ医薬品のジェネリック医薬品であるバイオシミラーの開発も盛んに行われています。

このように、非常に盛んに開発が行われているバイオ医薬品ですが、前述のとおり、主成分はタンパク質であるため、生産プロセスや保管時に受ける温度変化や振動といった外的変化に非常に敏感で、タンパク質が変性、変質することがあります。これらのタンパク質の変化の中に凝集体の発生があります。近年、バイオ医薬品に含まれる凝集体が免疫原性を引き起こす可能性が指摘されており、従って、製剤中に含まれる凝集体の正確な定量と適切な管理が求められています。

今回は、超遠心分析、特に超遠心沈降速度法(SV-AUC)によるバイオ医薬品の凝集体について、その位置づけと意義についてご紹介します。

サイズ排除クロマトグラフィーと超遠心沈降速度法

以前は、バイオ医薬品の凝集体の定量には、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が広く使用されてきました。SECは、非常に簡便で、感度も高く、また再現性にも富んだ解析手法であるため、ほとんど全てのバイオ医薬品の凝集体定量に使用されてきました。しかしながら近年は、凝集体がSECで正確に定量されているかについて検証が必要とされています1,2。その理由としては、SECでは使用するカラムのポアサイズなどにより、分析可能な凝集体のサイズが限定されることが、まず挙げられます。通常の抗体医薬品の場合、SECで分離可能な凝集体は3-4量体までです。それよりサイズの大きな凝集体は、カラムを通過できず検出されないことがあります。また、SECではカラム担体を用いて分離を行うため、カラム担体とタンパク質、特に凝集体との相互作用や吸着により溶出されないことが問題となります。それらの相互作用、吸着を抑えるために、移動相のイオン強度を上げる、アセトニトリルなどの有機溶媒を添加する、アルギニンなどの添加剤を加えることなどが行われていますが、そうした分離条件での結果は製剤に含まれる凝集体含量そのものを反映していない可能性があり、その理由として、例えば、アセトニトリルの添加は凝集体の解離を促進し、また、タンパク質自体の変性を促す作用が考えられます。また、SECではカラム内をサンプルが通過する際に、移動相による試料の希釈が起こります。そのため、濃度依存的に形成する凝集体の場合、希釈により解離し、実際に含まれる凝集体量よりも少なく検出されることになります。このような問題点から、アメリカ食品医薬品局(FDA)などは、SEC分析の結果を他の分析方法で検証することを勧めています1,2。その検証に用いる分析方法として、担体などとの吸着がなく、溶媒の使用制限もほとんどない、製剤そのものに含まれる凝集体の評価が可能なSV-AUCが最適な方法の1つと考えられています。SV-AUCでは、バイオ医薬品で主に使用されている溶媒条件での測定が可能です。また、測定に担体を使用しないため、吸着による影響もありません。さらに測定濃度についても、UV検出系を使用する場合はそのタンパク質のモル吸光係数にもよりますが、約5 mg/mL程度までの測定が可能で、光路長が異なるセンターピース(通常は12 mmを使用しますが、3 mmのセンターピースも販売されています)を使用した場合は、さらに高濃度での測定も可能です。次に、実際の測定例を示します。

SV-AUCとSEC分析の比較例

図1に、ヒト免疫グロブリン製剤についてSEC分析及びSV-AUCを行った結果を示しています。

SECでは単一ピークとして観測された3量体以上の成分が、3量体以上の複数種類の会合体から構成されており、さらにSECでは2.6%であった3量体以上の成分は少なくとも3.7%は含まれていたことがSV-AUCの結果から分かります。このように、SECでは実際に含まれる凝集体が低く定量されることがしばしば起こりますが、SV-AUCであればSECでは分析が難しい40 nmを超える凝集体を検出・定量できます。また、SECの場合、図2の(A)のように単量体と2量体間で、ベースラインが分離されない場合があります。SECでは、ピーク面積から、それぞれの画分の%を算出しますが、このようにベースラインが分離されていない場合、ピークの分割法によりそれぞれの%が変わります(表2)3。SECでベースライン分離を実現するには、カラム長を長くする、溶媒条件を変更するなどの手段が考えられますが、容易でありません。ピークの分割法によっては、SV-AUCと同等の値が得られる場合もありますが、複数種類の凝集体が存在している場合、妥当なピーク分割は容易ではありません。SV-AUCでは、複数種類の凝集体が含まれている場合でも各凝集体由来のピークを分離して検出可能なため、正確に単量体含量と各凝集体含量を求めることが出来ます(図2B、表1)。

表1. 図2のSEC分析から得られた各成分の%(A)及びSV-AUCで分析から得られた各成分の%(B)

分析法1:ピークの分割を、垂直分割で行った解析結果 分析法2:ピークの分割を、ガウシアン関数を用いて、フィッティングを行った解析結果

単量体含量(%) 2量体(%)
SV-AUC 90.76±0.20 9.24±0.20
SEC分析 (分析法1) 89.37±0.16 10.63±0.16
SEC分析 (分析法2) 90.55±0.02 9.45±0.02

このようにSECとSV-AUCの結果が異なることはしばしば起こります。図3に、我々が約30種類のサンプルについて、SECとSV-AUCで測定した際の、それぞれの分析法で得られた単量体含量と2量体含量を比較(SV-AUCで得られた含量/SECで得られた含量)した結果を示します4。その結果、SV-AUCとSECの結果で、差がある結果が多くみられることがわかります。このような差が見られる原因としては、前述したベースライン分離が不十分であることや、移動相の違いによる影響などが考えられます。SEC分析時の移動相のイオン強度を変化させ、その際の単量体含量、2量体含量を比較した結果を図4に示します。

移動相として生理的塩濃度であるPBSとイオン強度の高い溶媒を用い、凝集体含量の比較を行うと、PBS条件よりも高イオン強度条件の方が、単量体の含量が増加し、2量体の含量が低下します。これは、静電的な相互作用力で形成されていた凝集体がイオン強度を上げることで解離した可能性を示唆しています。ここでは、凝集体量が減少した例を示しましたが、移動相のイオン強度を上げると凝集体の形成が促進される場合も報告されています。

おわりに

このように、SV-AUCでは、タンパク質溶液そのものを測定・分析するため、精確なバイオ医薬品の凝集体定量が可能となります。スループット性や簡便性などはSECの方が優れている側面があることから、SECで得られた結果をSV-AUCにより検証あるいは確認するのが好ましいといえます。また、近年では分析用超遠心機を改良し、検出器に蛍光検出器を用いた例や、干渉測定系を改良した報告もされています5,6。こうした改良により、分析用超遠心機で測定可能な濃度域は、数pMから数百µMに広がりつつあります。そのため、他の分析法では困難な、血清中でのバイオ医薬品の凝集をモニタリングする、また濃度が100 mg/mLを超えるような高濃度バイオ医薬品の凝集体を定量するといったことが、超遠心分析で可能となりつつあります。このような観点からも、超遠心分析がバイオ医薬品の凝集体評価において不可欠な手法であると考えられます。


参考文献

1. FDA, Guidance for Industry (2014)Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products

2. Carpenter JF, Randolph TW, Jiskoot W, Crommelin DJ, Middaugh CR, Winter G (2010) Potential inaccurate quantitation and sizing of protein aggregates by size exclusion chromatography: essential need to use orthogonal methods to assure the quality of therapeutic protein products J Pharm Sci 99:2200-2208 doi:10.1002/jps.21989

3. Krayukhina E, Uchiyama S, Nojima K, Okada Y, Hamaguchi I, Fukui K (2013) Aggregation analysis of pharmaceutical human immunoglobulin preparations using size-exclusion chromatography and analytical ultracentrifugation sedimentation velocity J Biosci Bioeng 115:104-110 doi:10.1016/j.jbiosc.2012.07.021

4. Uchiyama S, Noda M, Krayukhina E (2018) Sedimentation velocity analytical ultracentrifugation for characterization of therapeutic antibodies. Biophys Rev. 2018 Apr;10(2):259-269. doi: 10.1007/s12551-017-0374-3.

5. Krayukhina E et al. (2017) Analytical ultracentrifugation with fluorescence detection system reveals differences in complex formation between recombinant human TNF and different biological TNF antagonists in various environments MAbs 9:664-679 doi:10.1080/19420862.2017.1297909

6. Jimenez M, Rivas G, Minton AP (2007) Quantitative characterization of weak self-association in concentrated solutions of immunoglobulin G via the measurement of sedimentation equilibrium and osmotic pressure. Biochemistry 46:8373–8378. https://doi.org/10.1021/bi7005515