2019.03

第4回 超遠心分析平衡法による解析例

クラユヒナ エレナ 1,2, 野田 勝紀 1,2, 内山 進 1

1大阪大学大学院 工学研究科
2株式会社ユー・メディコ

はじめに

第4回では、様々な分野における超遠心沈降平衡法の利用例を紹介します。

超遠心沈降平衡法(Sedimentation Equilibrium Analytical ultracentrifugation;SE-AUC)では、数千から数万rpmの比較的低い回転数で測定を行い、セル内に形成される粒子の濃度勾配を観察します(第1回参照)。超遠心沈降平衡法では、溶液中の分子にかかる遠心力と拡散力とが釣り合っており、その釣り合いから導かれる濃度勾配は以下の式1により表されます。式1を用いて観測された濃度勾配に対して非線形フィッティンを行うことで、測定濃度における見かけの平均分子量(Mapp)が得られます。

ここで、rはローターの中心からの距離、Ctotal (r)はrの位置における溶液の濃度、v¯i は溶質の偏比容、ρは溶媒の密度、ωは角速度、Rは気体定数、Tは測定温度です。

得られた見かけの平均分子量には、溶液中に分散している全ての分子の分子量が寄与するため、不純物や凝集体が混入している場合、また引力や斥力といった分子間相互作用が働いている場合、見かけの平均分子量と計算から予想される分子量は一致しません。そのため、超遠心沈降平衡法では、出来るだけ純度が高い試料を用いて見かけの分子量の濃度依存性を求め、濃度ゼロ外挿し、平均分子量を求めることが行われます。また、超遠心分析速度法などにより、事前に溶液中の分子の分散状態や純度を確認することが望ましいといえます。

解析例

① 分子量解析

SV-AUCでは、超遠心時の分子の沈降と拡散挙動を解析することで、分子の沈降係数分布と摩擦係数を求め、分子量を得ることができます(第3回参照)。摩擦係数は分子の形状を反映しますが、多分散系の場合、SV-AUCから各々の分子の形状を求めることは容易ではありません。SE-AUCでは希薄溶液の場合、分子形状の影響はなく、従って、分子形状に影響されることなく正確な分子量を求めることができます。ただし、前述の通り、不純物や分子の分散状態などに見かけの分子量は影響されます。そのため、純度の高い溶液を準備すること、また確実な解析のために、複数条件の回転数と濃度で測定を行う必要があります。図1では、コンブ属(Laminaria)に多く含まれるβ-グルカンであるラミナリンについて、異なる濃度3点(0.5、2.5、5 mg/mL)、回転数(13,000、30,000、50,000 rpm)でのレーリー干渉光学系を用いたSE-AUC結果を示しています1。SEDPHATによるグローバル解析(第2回参照)において、残差はランダムに分布し、良好なフィッティング結果が得られています。解析により見積もった見かけの分子量は約3.6 kDaとなりました。

(A)

(B)

(C)

図1.ラミナリンについてSE-AUCによる測定データについてSEDPHATによるグローバル解析結果
ラミナリン濃度(A)0.5 mg/mL、(B)2.5 mg/mL及び(C)5 mg/mLについて、
回転数13,000 rpm(青)、30,000 rpm(緑)及び 50,000 rpm(赤)での測定を行いました。

② 複合体の化学量論決定

液体中でのタンパク質間相互作用解析のため、SV-AUCと同様、SE-AUCは広く利用されています。相互作用解析の一例として、SE-AUCにより測定した濃度勾配から複合体の化学量論を明らかにしたケースを紹介します。図2には、抗体と抗原の混合溶液の濃度勾配を示しています2。抗体と抗原を等モル混合した溶液について回転数6,000、 8,000及び 12,000 rpmにおける平衡時の濃度勾配を取得し、2種類の相互作用モデルを用いてグローバル解析を行いました。残差の分散と偏りから、1:1相互作用モデルは不適切であり、一方、抗体:抗原1:2相互作用モデルが適切であることが明らかとなりました。同様に、SE-AUCによりタンパク質の自己会合やヘテロ相互作用、さらにタンパク質-低分子間の相互作用等の化学量論を求めることができます。

図2.抗体と抗原の混合溶液の濃度勾配
(A)抗体と抗原の等モル混合溶液の6,000 rpm(青)、8,000 rpm(緑)及び12,000 rpm(赤)で得られた濃度勾配、
(B) 1:1相互作用モデルによりグローバル解析を行った際の残差プロット、
(C) 1:2相互作用モデルによりグローバル解析を行った際の残差プロット

③ 第二ビリアル係数(B2)解析

SE-AUCにより分子間相互作用を反映する第二ビリアル係数(B2)を決定できます。B2は分子間に働く分子間力の総和です。平衡法により異なる濃度で得られた見かけの分子量の逆値を濃度の関数としてプロットし、以下の関係からB2を得ることができます。

見かけの分子量が濃度上昇に伴って減少する場合、B2値は正となり、分子同士が反発する斥力的分子間相互作用系であることが分かります(図3)。一方、見かけの分子量が濃度上昇に伴って増加する場合、B2値は負となり、分子同士が引き合う引力的分子間相互作用系であると判断できます。つまり、B2の正負、さらにその値が、溶液中での分子の会合のしやすさの指標になります。このことから、バイオ医薬品の開発において、大きな正のB2値を有する処方条件を選択することによってバイオ医薬品の自己会合を防ぐことができ、従って、高濃度バイオ医薬品の処方開発における重要なパラメータとなると考えられています。

図3. 第二ビリアル係数による分子間相互作用の評価

図4に、異なる3種類のヒト化IgG1モデル抗体について10 mg/mL以下の溶液を用いてB2を様々な処方条件下で測定した結果、さらに、B2と100 mg/mL以上の高濃度条件での保管時の凝集性、粘度との相関を示します。全ての抗体でB2が小さく負になるに従って凝集性が高まり、粘度が上昇することがわかります。この結果から、分子間相互作用を反映するB2が高濃度における凝集性、粘度上昇の有効な予測指標となりうると言えます。

図4.異なる3種類のヒト化IgG1の様々な処方条件下での第二ビリアル係数と、高濃度条件での保管中の凝集傾向と粘度との相関性

④ 平衡解離定数解析

SE-AUCでは、自己会合やヘテロな会合における平衡定数KDを求めることができます。図5では、マウスIgG2bのFcフラグメントとマウスFcγRIIの1:2 モル比の混合溶液の濃度勾配を示しています4。1:1モデル式を用いることで、良好なフィッティング結果が得られ、KD値として2.77 µMが得られました。このように、SE-AUCにより会合に関する定量的な物理化学的パラメータの取得が可能です。

図5.マウスIgG2bのFcフラグメントとマウスFcγRIIの1:2 モル比の混合溶液の濃度勾配と1:1モデルにより得たフィッティング結果

おわりに

今回は、超遠心沈降平衡法の解析例を紹介しました。


参考文献

1. Oda M, Tanabe Y, Noda M, Inaba S, Krayukhina E, Fukada H, Uchiyama S. Structural and binding properties of laminarin revealed by analytical ultracentrifugation and calorimetric analyses. Carbohydr Res. 2016 Aug 5;431:33-8.

2. Noda M, Uchiyama S, McKay AR, Morimoto A, Misawa S, Yoshida A, Shimahara H, Takinowaki H, Nakamura S, Kobayashi Y, Matsunaga S, Ohkubo T, Robinson CV, Fukui K. Assembly states of the nucleosome assembly protein 1 (NAP-1) revealed by sedimentation velocity and non-denaturing MS. Biochem J. 2011 May 15;436(1):101-12.

3. Saito S, Hasegawa J, Kobayashi N, Tomitsuka T, Uchiyama S, Fukui K. Effects of ionic strength and sugars on the aggregation propensity of monoclonal antibodies: influence of colloidal and conformational stabilities. Pharm Res. 2013 May;30(5):1263-80.

4. Kato K, Sautès-Fridman C, Yamada W, Kobayashi K, Uchiyama S, Kim H, Enokizono J, Galinha A, Kobayashi Y, Fridman WH, Arata Y, Shimada I. Structural basis of the interaction between IgG and Fcgamma receptors. J Mol Biol. 2000 Jan 14;295(2):213-24.