2018.10

第3回 超遠心分析速度法による解析例

クラユヒナ エレナ 1,2, 野田 勝紀 1,2, 内山 進 1

1大阪大学大学院 工学研究科
2株式会社ユー・メディコ

はじめに

第3回では、様々な分野における超遠心分析速度法の利用例を紹介します。

超遠心沈降速度法(Sedimentation Velocity Analytical ultracentrifugation;SV-AUC)では、溶液に遠心力をかけた際の溶質の沈降の様子を観測します。溶質の沈降に伴って溶液中に溶質が存在しなくなった領域と、溶質が存在している領域に、沈降境界面が生じます。理想溶液中の場合、沈降境界面の形状や時間変化は、溶質の沈降係数と拡散係数に依存し、以下のLamm方程式と呼ばれる偏微分方程式で表されます。

ここで、sは沈降係数、Dは拡散係数、ωは角速度、rはローターの中心からの距離、Cは溶質の濃度を表します。Lamm方程式には、一般解は知られていませんが、近年のコンピューターの演算能力の上昇により、実際の沈降挙動に対して、Lamm方程式を用いた数値解析が可能となっています。こうした解析にはc(s)解析や2DSA解析などがあり、第2回に紹介させて頂いたソフトウェアにより可能です。解析により溶質の沈降係数の分布を求めることができます。さらに、正確な偏比容値を用いれば、拡散係数、ストークス径、分子量分布も得ることが可能です。以下に、超遠心沈降速度法を用いた解析例をご紹介します。

解析例

① バイオ医薬品の凝集体解析

バイオ医薬品の開発では、バイオ医薬品に含まれる凝集体が、免疫原性を引き起こす可能性が示唆されているため、製剤中に含まれる凝集体の定量を正確に行うことが求められています。可溶性の凝集体の定量には、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が通常広く使用されています。しかし、近年、SECに関して、1.担体との相互作用により凝集体が溶出されない、2.用いる移動相により凝集体含量が異なる場合がある、3.溶出中の希釈により、解離会合性の凝集体が正確に定量できない、などの問題点が指摘されています1。そのため、凝集体の定量が、SECで正確に実施されているかの検証が必要です2。その検証方法として、担体との相互作用もなく、溶液そのままの測定が可能なSV-AUCが最適な方法として認識されています。図1には、ヒト免疫グロブリン製剤についてSEC及びSV-AUCを行った結果を示しています。SECのクロマトグラムにおいて、単一ピークとして表される3量体と考えられる画分まで検出されています。一方、SV-AUCの結果では、3量体より大きいオリゴマーも検出されています。また、SECでは2量体より大きな凝集体の含量は2.6%と検出されていますが、SV-AUCでは、4.3%と、SECの結果よりも多く検出されています。この結果は、SV-AUCは2量体以上の凝集体についてより高い分解能での解析が可能であり、SECよりも広いサイズレンジを有し、SECでは分析が難しいとされる40 nmを超える凝集体を検出・定量可能であることを示しています。

(A)

(B)

図1.ヒト免疫グロブリン製剤についてのSEC(A)及びSV-AUC(B)による凝集体定量結果

② タンパク質相互作用解析

SV-AUCは、タンパク質などの生体高分子の相互作用解析にも広く利用されています。たとえば、複合体の化学量論決定や、結晶構造解析で得られた複合体構造と同様の複合体が溶液中で存在するかどうかの検証に多く用いられています。また、化学量論の決定にも用いられています。図2では、モノクローナル抗体とその抗原との複合体の形成を評価するために行ったSV-AUCの結果を示しています3。抗原の非存在下で(青色)、抗体の沈降係数は、約6.8 Sであり、一般的な抗体のモノマーの沈降係数と近い値を持っていることから、抗体がモノマーで存在していることが分かります。抗原と抗体を等モル量で混合した条件では(マゼンタ)、抗体のみで観測された抗体モノマーのピーク(6.8 S)は観察されず、沈降係数10 S以上に複数のピークが検出されました。解析で得られた摩擦係数比(第1回参照)と沈降係数からそれぞれのピークの分子量を算出すると、抗体モノマーの値より大きくなり、それぞれが抗原-抗体複合体に対応することが明らかになりました。ただ、今回のように複数のピークが観測された場合、それぞれの摩擦係数比を別々に算出すること容易ではなく、化学量論の決定に至る精度での分子量決定は、SV-AUCでは困難です。そのため、この研究では、非共有結合複合体評価に有用な手法であるネイティブ質量分析により決定した質量との対応から、14.4 S付近のピークは抗体2個分子と抗原2個分子から形成された複合体として同定しました。なお、溶液中で複合体が単分散で存在している場合は、化学量論の決定が可能な精度での分子量決定が可能です。また、様々な混合比での複合体の溶液中での存在比の算出には、幅広い測定可能な濃度域を有するSV-AUCは非常に有用な手法です。今回ご紹介したタンパク質間相互作用と同様に、DNA、RNA、および金属などのリガンドとのタンパク質相互作用にもSV-AUCは使用できます。

図2.モノクローナル抗体とその抗原との複合体の形成

③ 粒子径解析

ナノ粒子や、導電性ポリマーなどの粒径分布分析には、動的光散乱法(DLS)がよく使用されます。ただしDLSでの粒径分布は、強い散乱を持つような大きな粒子が共存している場合は、大きな粒子の強い散乱光により小さな粒子の散乱光の観測が難しくなるため、溶液中で純度確認など半定量的な使用に目的が制限されます。その点、SV-AUCは比較的広いサイズレンジをカバー出来るため、定量的な粒度分布分析が可能です。粒度分布分析では、SV-AUCデータ解析により得た沈降係数と摩擦係数を用いて、沈降係数分布c(s)をストークス半径分布c(R)に変換します。図3に示した例では、直径100 nmの標準ポリスチレンビーズについてレイリー干渉光学系(第1回参照)を用いたSV-AUC結果を示しています4。得られたc(s)分布(図3(A))を、摩擦係数比を用いて、c(R)分布(図3(B))に変換しました。c(R)分布から、ストークス半径の重量平均値は53 nmとなり、標準粒子の粒子径と一致しました。

(A)

(B)

図3.100 nmの標準ポリスチレンビーズについてレイリー干渉光学系を用いたSV-AUC結果

④ 平衡解離定数解析

SV-AUCの利点の一つは、溶液を希釈せず測定可能であることです。そのため、様々な溶液濃度での会合体の分布を明らかにすることが可能です。SV-AUCを、濃度依存的に解離会合する系の相互作用解析に使用することで、自己会合やヘテロな会合の平衡定数KDを推定可能です。具体的には、まず、様々な溶液濃度でSV-AUCを実施し、それぞれの濃度での沈降係数分布を得ることによりそれぞれの濃度での会合の様子を明らかとします。次に、各濃度の沈降係数の分布から、重量平均沈降係数swを計算し、横軸に濃度、縦軸にswをプロットし、実際の会合モデルにあったモデル式を用いて非線形フィッティングすることで、KDを求めることができます。以下に、セマフォリン6A(Sema6A)受容体結合断片Sema6ASPの自己会合を調べるために行った相互作用解析の例を示します5。図4(A)にSema6ASP濃度1(紫色)、3.25(青色)、および12 µM(緑色)についての得た沈降係数分布を示します。この結果より、観測されるSema6ASPは、濃度依存的に2量体を形成することが分かります。さらに、異なる濃度3点のSV-AUC解析を行い、横軸に濃度、縦軸にs>wをプロットし、単量体-2量体のモデル式を用いてフィッティングを行った結果を図4(B)に示します。ここでは、良好なフィッティング結果が得られ、KD値として3.5 µMが得られました。このように、様々な濃度での会合状態の特定がSV-AUCにより可能で、さらに、会合に関する物理化学的パラメータの取得も実現出来ます。

(A)

(B)

図4.自己会合タンパク質の平衡解離定数を決定するために等温分析の例

おわりに

今回は、超遠心分析沈降速度法の解析例を紹介しました。第4回では、超遠心分析沈降平衡法の解析例を紹介します。


参考文献

1. Krayukhina E, Uchiyama S, Nojima K, Okada Y, Hamaguchi I, Fukui K. Aggregation analysis of pharmaceutical human immunoglobulin preparations using size-exclusion chromatography and analytical ultracentrifugation sedimentation velocity. J Biosci Bioeng 2013;115(1):104-110.

2. FDA, Guidance for Industry: Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products.

3. Krayukhina E, Noda M, Ishii K, Maruno T, Wakabayashi H, Tada M, Suzuki T, Ishii-Watabe A, Kato M, Uchiyama S. Analytical ultracentrifugation with fluorescence detection system reveals differences in complex formation between recombinant human TNF and different biological TNF antagonists in various environments. MAbs 2017;9(4):664-679.

4. 野田勝紀, クラユヒナエレナ, 橫山雅美, 内山進. 超遠心沈降速度法によるナノ粒子の粒子径測定. 粉体技術 2015;7(7):626-631.

5. Nogi T, Yasui N, Mihara E, Matsunaga Y, Noda M, Yamashita N, Toyofuku T, Uchiyama S, Goshima Y, Kumanogoh A, Takagi J. Structural basis for semaphorin signalling through the plexin receptor. Nature 2010;467(7319):1123-1127.