2018.04

第1回 超遠心分析の原理とできること

クラユヒナ エレナ1,2, 野田 勝紀1,2, 内山 進1

1大阪大学大学院 工学研究科
2株式会社ユー・メディコ

はじめに

超遠心分析(Analytical UltraCentrifugation; AUC)は、溶液に最大29万xgという大きな遠心力をかけ溶質が時間とともに沈降する様子を観測し、得られた沈降挙動を解析することで溶質の形状や分子量、分散・会合状態などを明らかにする方法です。AUCの理論は、強固な熱力学と流体力学に基づいており、沈降挙動の解析から、沈降係数と拡散係数、さらに分子量などの物理化学的パラメータが得られます。また、流体力学的形状や分子半径、さらに分子間相互作用の程度などの溶液物性に関する情報を得ることも可能です。

AUCは、スウェーデンのウプサラ大学の科学者Theodor Svedberg博士によって1920年代に最初に開発されました。AUCの測定装置、測定方法および解析の基礎はほとんど全てSvedbergにより開発されたと言ってもよく、Svedberg博士は超遠心分析を用いたコロイド分散系に関する研究で1926年ノーベル化学賞を受賞しています。市販の装置としては、1947年にスピンコ社(後にベックマン社が買収)から分析用超遠心機Model-Eが発売され、その後、現在までの間に装置の改良が幾度か行われ、さらに解析手法の開発が行われてきました。

当初AUCは金属粒子からなるコロイド分散系の研究のために利用されましたが、1940年代にはSvedbergが、さらにその後Schachman博士、Williams博士、Yphantis博士、van Holde博士といった研究者がタンパク質などの生体試料の測定と解析の手法を発展させ、1970年代半ば頃には生体高分子の溶液中での分子量を求めるための標準的な手法となりました。SDS-PAGEなど他の手法が登場したことにより、1980年代にAUCが利用される頻度は減少しましたが、1990年代に入り、ベックマン社(後にベックマン・コールター社)からModel-Eの後継機であるXL-AとXL-Iが発売され高精度の沈降データが得られるようになり、さらに1990年代以降コンピューターの性能が飛躍的に発達したことによって、以前は難しかった沈降挙動の数値解析が可能となり、溶液中での分子の物理化学的な評価法として再び注目されるようになりました。現在AUCは、医薬品、材料など様々な分野で不可欠な手法となっており、2017年にはXL-AとXL-Iの後継機としてOptimaが発売され、さらなる発展が期待されています。今回は第1回として、AUCの検出原理と解析理論、さらにAUCにより解決可能な課題、すなわちAUCによりできること、を説明します。

図1.超遠心分析に用いるセル

検出方法および超遠心分析の2つの方法

超遠心分析法では、専用の測定セルを用います。専用セルの構成を図1に示しましたが、まず、センターピースの両側をウィンドウアセンブリで挟み、次にハウジングへセットし、測定セルを組み立てます。組み立てたセンターピースの2つの注入口から試料と対照液をそれぞれ注入した後シールし、ローターにセットします。超遠心分析機は遠心チャンバー内に吸収および屈折光学検出系を備えており、セル内各位置における溶質濃度を直接リアルタイムで観察することにより沈降挙動を取得します。

超遠心分析には沈降速度法と沈降平衡法の2つの方法があります。まず、それぞれの手法の原理を説明し、その後、それぞれの手法により解析可能な内容を説明します。

超遠心分析沈降速度法(沈降速度法、SV-AUC)

超遠心分析沈降速度法では、最大29万xgの遠心力により、完全に溶質を沈降させ、その沈降する様子をリアルタイムでモニタリングする方法です。モニタリングの方法は、測定対象の溶質の性質により、光学吸収や屈折率変化に伴う干渉縞の変化を測定するレイリー干渉計が使用されます。 超遠心力場においては、溶質分子には式1で表される遠心力Fcがかかります。また、遠心力と逆向きに2つの力、式2で表される溶液からの浮力Fbと式3で表される溶液からの摩擦力Fdがかかります。

図2.超遠心力場における分子にかかる力

ここでmは溶質の質量、 vは溶質の偏比容、ρは溶媒の密度、fは摩擦係数、vは速度です。
一般的には高回転数で行う沈降速度法では、溶質分子はセル中で等速運動しており、従って上記の三つの力が釣りあっています。

溶質の質量mを、m=M/NA(Mは溶質の分子量、NAはアボガドロ定数)で表し、式4に式1、2、3を代入し、整理すると式5が得られます。この式5で得られる値を沈降係数(sedimentation coefficient)、s値と呼び、単位はSvedberg博士の頭文字からSとされています。

式5より、s値は溶質の分子量に比例し、摩擦係数fに反比例することがわかります。摩擦係数fは、分子の表面積に比例します。同じ体積の分子でも、球状と楕円体では球状の方が表面積は小さくなるため、摩擦力は小さくなります。つまり、同じ表面積を持つ分子で、分子量が大きな分子は速く沈降し、沈降係数が大きくなります。逆に同じ分子量の分子でも、表面積が大きく、摩擦が大きい分子は遅く沈降し、沈降係数が小さくなります。

超遠心分析沈降速度法では、ある時点でのセル中の溶質濃度分布は、図3に示したような濃度分布を反映する曲線となります。沈降速度法では、溶質分子を完全に沈降させるため、溶媒のみとなった部分と溶質が存在している部分の間に境界面が生じます。この境界面では大きな溶質濃度差が生じるため、境界面では時間依存的な溶質分子の拡散が起こります。拡散係数は、前述の摩擦係数に反比例し、以下の式で与えられることが知られています。Rは気体定数、Tは温度となります。


図3.沈降速度法による沈降挙動のリアルタイムモニタリング:
各時間のセル内の濃度変化(上)と実際の沈降挙動(下)

式6はfについての式に変形され、式5に代入すると、分子量、沈降係数、拡散係数についての方程式を得ることができます(式7)。この方程式をSvedberg方程式と呼びます。

また、摩擦係数fはストークスの式で与えられることができます。

ここで、Rsはストークス半径です。これら摩擦係数fを式6に代入すれば、

を得ることができます。

つまり、データ解析によりsとDが得られることで、分子量やストークス半径が得られます。

超遠心分析沈降平衡法(沈降平衡法、SE-AUC)

超遠心分析沈降速度法と比べ、超遠心分析沈降平衡法では、低回転数(弱い遠心力場)で行うので、溶質分子は完全沈降せず、遠心力と拡散力が均衡した平衡状態となります。 その結果、沈降速度法で観察されるような沈降境界面は観測されず、メニスカスでの溶質濃度は減少し、ボトム付近での溶質濃度は増加する濃度勾配が観測されます(図4)。 この濃度勾配は、遠心力Fcと拡散力FDのつり合いに従った勾配となり、分子の形状には依存せず、以下の式で表されます。


図4.沈降平衡法によるセル内の濃度勾配(上)と沈降パターン(下)

ここでμは回転中心からの半径rの位置における溶液の化学ポテンシャルであり希薄溶液であれば、次式で表されます。

ここでc(r)はrの位置における溶液の濃度であり、Rは気体定数、Tは温度となります。式12に式13を代入し、式11に、式12ともに代入し、その微分方程式を解くと、濃度勾配を表す式が得られます。

この式を用いて、測定で得られた曲線を解析することにより、ある濃度における見かけの平均分子量Mappを決定することができます。通常は、濃度数点での測定を行い、濃度を横軸、各濃度で得られた見かけの分子量の逆数を縦軸にプロットし、直線近似することで、濃度0外挿値から平均分子量を得ます。

超遠心分析の応用

超遠心分析は、溶液中の分子の沈降係数や拡散係数といった物理化学的なパラメータだけでなく、分子量、サイズおよび形状に関する情報、さらにその分布といった定量的な情報も明らかにすることが可能です。溶質と溶媒の種類には制限がほとんどなく、様々な条件での解析が可能という利点を有しています。具体的な測定可能なサンプルの条件としては、①溶質が、溶媒成分と区別できる光学的性質を有すること、②最大29万×gの遠心力場において沈降または浮遊すること、③溶液が測定セルに腐食などの影響を与えないことです。超遠心分析機は、検出系として原理の異なる3つの光学系(吸光、レーリー干渉および蛍光検出器)を有しており、測定対象についてそれらの光学系を使い分けることで、生体高分子であるタンパク質、DNA、RNA、多糖類などにとどまらず、金コロイドなどの無機分子、ICP(Intrinsically Conducting Polymers)とよばれる導電性ポリマーなどの沈降挙動についても、正確に観測可能で、それらのサイズや、溶液中での分散状態についても明らかにすることができます。超遠心分析で測定可能な分子量の範囲は、数百Da(ペプチド、色素、オリゴ糖)から数百万Da(ウイルス、オルガネラなど)まで非常に広範囲に及びます。

表1に超遠心分析によって明らかに出来ることをまとめました。沈降速度法では、前述のとおり、沈降係数および拡散係数が得られます。さらに、流体力学的形状が明らかになることで、そこから分子量やストークス半径が得られます。第3回で紹介する解析方法では、沈降係数の濃度分布が得られることから、試料の純度や凝集、会合体の有無を判定することができます。さらに応用的な方法では、生体高分子の会合状態および平衡定数、化学量論等も得ることができます。

表1.超遠心分析によって明らかに出来る事柄

測定方法 明らかにできること
沈降速度法 ・沈降係数分布の決定
・試料の純度の決定
・凝集体の評価
・複合体の化学量論の決定
・流体力学的形状
・沈降係数および拡散係数による分子量やストークス半径分布の決定
・解離会合系平衡定数の決定
沈降平衡法 ・分子量の決定
・第二ビリアル係数による分子間相互作用の評価
・解離会合系平衡定数の決定
・複合体の化学量論の決定

沈降平衡法では、前述のように見かけの平均分子量を算出できます。この見かけの平均分子量を用いて、分子間相互作用を評価するために用いる第二ビリアル係数B2を決定できます。詳しくは、第4回にて説明しますが、溶液中において溶質分子同士が会合傾向を持つのか、あるいは反発傾向にあるのかを判断できます。その他にも、複合体の化学量論や平衡定数の決定も可能です。

おわりに

今回は、超遠心分析の検出原理と基本的な理論背景、さらに超遠心分析で明らかにできることについて簡単に紹介しました。今後、超遠心分析のデータ解析に用いるソフトウェア(第2回)、超遠心分析沈降速度法(第3回)および沈降平衡法(第4回)の説明・解析例を紹介します。