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Jan 2019

セルソーターを用いたバイオ燃料高産生藻の
ハイスループット遺伝子改変オートメーションシステム

株式会社デンソー
先端技術研究所 マテリアル研究部
バイオ材料課
久野 斉
吉満 勇也
外海 駿輔

株式会社デンソーは、先進的な自動車技術・システム・製品を提供するグローバルな自動車部品メーカーです。その研究開発は、自動車部品のみならず、さまざまな分野へ展開しており、その一つとして藻を用いたバイオ燃料の実現に取り組まれております。その中で、バイオ燃料により効率の良い藻の育種を行う上で、遺伝子改変、シングルセルアイソレーション、改変株評価の一連の育種プロセスをより迅速に、高いスループットで実施するために、セルソーターを含むラボオートメーションシステムを構築し、自動化されています。今回、株式会社デンソーで実施されているバイオ燃料研究と、藻の育種オートメーションシステム“バイオコンビ”の概要を、先端技術研究所の久野 斉 様、吉満 勇也 様、外海 駿輔 様にご紹介いただきました。

デンソーにおける藻バイオ燃料研究

デンソーにおける「藻からバイオ燃料の研究」は2008年頃から始まりました。弊社は自動車部品メーカーとしてCO2の削減は社内でも大きなテーマの一つとしています。CO2削減を実現できる研究シーズを調査していく中で、CO2吸収量の大きい藻によるバイオ燃料の生産を実現するというテーマは、自動車部品メーカであるデンソーとの親和性も高く、適したテーマと考え研究を開始しました。

現在、弊社ではマテリアル研究部と新事業統括部が連携し、私たちマテリアル研究部では育種と培養の要素技術開発、新事業統括部は屋外レースウェイポンドを用いた実証試験という分担で進めています。

研究から事業化を目指すための最も大きな課題は、コストです。藻バイオ燃料は世界的に研究されてきましたが、コストの壁に阻まれ事業化実現には至っていません。弊社でもこれまで生産性向上による効率化やコスト低減に取り組んでおり、その一つとして藻の育種、つまり藻自体をパワーアップさせることで燃料源となる油脂の生産性を高めるという取り組みを行っています。

Vol.1:概要編

藻の育種研究

研究に使用している藻は、農水プロジェクトの中で京都大学の宮下先生により単離されたCoccomyxa sp. KJ(以降、KJ株)という単細胞緑藻を材料としています。藻の全体の特長として光合成能力が高く、作物を育てるための耕作地が不要で食物と競合しないというメリットがあります。中でもKJ株は油脂生産能力が高いだけでなく、低pH条件下でも比較的早く増殖できることから、ほかの生物のコンタミに強いというのが最大の特長です。ラボレベルでは、藻中に60%以上の油脂を溜めることが分かっていましたが、屋外で安定してそのポテンシャルを引き出すためには更なる改良が必要であり、藻の育種を行うことにしました。

Coccomyxa sp. KJ

研究を開始した当初は藻の育種技術はまだまだそろっておらず、遺伝子導入の方法から開発する必要がありました。中央大学との共同研究を通して、遺伝子導入方法の開発から導入効率の改善1)2)、遺伝子発現コンストラクトの構築1)3)4)、セルフクローニングシステム4)やPiggyBacシステムを用いた遺伝子除去技術の開発5)など、遺伝子改変技術の応用開発を行い、メタボリックエンジニアリングによる油脂生産性向上に取り組んできました。加えて、近年、広がっているゲノム編集も開発した技術を活用することでKJ株へ適用させ、遺伝子破壊を行うことに成功しました。油脂生産に不必要な遺伝子の機能を欠損させることが可能になったことで、さらなる生産性の向上が見込めます。ゲノム編集で狙った遺伝子のみを破壊し、それを一つの株に集積できれば、設計通りのスーパー藻を創製することも不可能ではありません。CRISPRというゲノム編集技術はゲノムを切断するCas9蛋白質と、標的遺伝子を特異的に認識するガイドRNAによって遺伝子破壊を達成します。

弊社では、KJ株向けにCas9をDNAの形で導入する方法とRNPの形で導入する方法の2つの実験系を確立しました。前者ではゲノム編集効率が比較的高いというメリットがありますが、セルフクローニングの考え方に基づくと外来遺伝子(Cas9遺伝子)をPiggyBacで除くというステップが必要となります。後者の場合、Cas9とガイドRNAの複合体であるCas9-RNPをそのまま細胞内に導入するため、外来遺伝子を使わずにゲノム編集を行うことができます2)。しかし、DNA系ほど高い効率ではないのが現状です。このようにそれぞれ長所短所があるので、あらゆる場面を想定した研究開発を進めています。いずれにしても、将来的に商用規模で屋外培養することを考えると、外来遺伝子を含まないことは非常に重要であり、現在はセルフクローニングやCRISPRによるゲノム編集技術を中心に育種を行っています。

バイオコンビ構想

上述のとおり育種技術開発を進めてきたのですが、バイオ系の実験にはノウハウやテクニックが必要な上、使用する装置のメーカーが多岐にわたるためその間をどうしても人が介在することになり、目的細胞の選抜や培養に時間や労力がかかるということがネックでした。ところで、弊社のメイン事業に立ち返ってみると、多くの工場でたくさんのロボットが製造設備のラインで稼働し、一つ一つのプロセスがオートメーション化され大量の製品を効率的に製造しています。このようなデンソー独自のオートメーションの考え方をバイオでも応用できないか、と考えたのが最初の着想です。これがいわゆる“バイオコンビ構想”です。

バイオコンビを立ち上げるにあたり、一番の研究対象である「藻」の遺伝子改変を最初のターゲットとしました。遺伝子改変を自動化すると言うのは簡単ですが、調べてみると世界的にも例は少なく、特に1stスクリーニングとアイソレーションの時間を大幅に削減することに重要なセルソーターを組み込んだロボット化はどこも手掛けていませんでした。そこに名乗りを挙げてくれたのがベックマン・コールターです。Biomekをベースとした自動化システムに実績があり、性能の高いセルソーターも開発されています。私たちはベックマン・コールターと手を組み、遺伝子導入、目的細胞の選抜、培養、遺伝子解析といった一連のワークの完全自動化を目指しました。ベックマン・コールター製のBiomekとセルソーター以外に、エレクトロポレーター、CO2インキュベーター、遠心機、サーマルサイクラー、キャピラリー電気泳動等の装置をロボットアームでつなぎ、SAMIと呼ばれるプログラムですべての装置を連動して制御します。ワークフローの確認、機器の選定、デモンストレーション、さまざまな議論を重ねて検討し、構想からおよそ2年かけて“バイオコンビ”を作り込みました。機器の設置後も、メーカーの異なる多くの装置を安定的に連動させることは予想以上に難しく、その上、セルソーターも協働させることは世界初の試みです。最初はトラブルの連発でしたが、その度にベックマン・コールターを中心にメーカー関係者と議論を行うことによって、おおよそ1年かけて安定的に稼働するシステムを完成させました。

*RFLP : Restriction Fragment Length Polymorphism

バイオコンビの配置

Vol.2:実験システム編

バイオコンビを使った成果

バイオコンビを導入した結果、遺伝子解析だけでみても1プレート当たり手作業に必要な時間は3分の2程度に削減でき、昼夜連続で10プレートを処理できれば、15分の1程度まで労力を減らせます。また、単純な時間の節約だけでなく、手作業の場合に発生していた細々とした雑務や待ち時間の断片化が無いことで、時間を有効に使えるのです。

バイオコンビを用いた取り組み事例の一つとして、FTSY遺伝子破壊株の作製があります。FTSY はクロロフィル関連因子であり、FTSYの機能が失われると、クロロフィル量が減少します。屋外のレースウェイで培養する場合、余分なクロロフィルが少なければ光の透過率が上昇し、底の方に流れている藻も十分な光を利用することができます。そのため、レースウェイ全体として光の利用効率がよくなり、油脂生産性の向上が見込まれます。遺伝子導入効率は研究開始当初よりも100倍程度向上しましたが、最終的にはその中でさらに遺伝子が破壊された細胞をピックアップする必要があります。上述した通り、Cas9-RNPを用いたゲノム編集の効率はまだそれほど高くありません。効率よく目的の細胞を単離するには何らかの方法で候補細胞を濃縮することに加え、多検体の中から目的の細胞を素早く同定する必要があります。前者については、ガイドRNAを蛍光標識したり、藻細胞内の油脂を蛍光染色したりすることによって、セルソーターで分離することができます。後者については、Biomekによるオートマティックな分注操作と、サーマルサイクラーやフラグメントアナライザーの連携によってハイスループットな解析が可能です。FTSYの遺伝子破壊は、KJ株においてCRISPRを初めて適用した例であったので、うまくいくかどうか分かりませんでしたし、うまくいったとしても何個の細胞を解析すれば目的の細胞が得られるかも不明でした。また、目視でも選抜できるようにFTSYを標的として選定したのですが、実際には目で判断することが難しい場合もありました。バイオコンビを使うことで、表現型ではなく遺伝子型を指標とした選抜も高スループットで実施可能となりました。人手では途方に暮れてしまうような大量のサンプルを一斉に解析できたので、遺伝子破壊株を作製できただけでなく、その取得効率も知ることができ、今後の育種に必要な課題を抽出することもできました。

Vol.3:バイオコンビシステムを導入して

今後の展望

現在、私たちは、油脂生産性の向上につながる遺伝子をいくつか見つ けており、遺伝子改変を積み上げているところです。

バイオコンビは藻の育種を目的として構築しましたが、どちらかというと藻の扱いは難しいケースであり、ほかの生物、ほかの用途にも応用展開できるはずです。例えば酵母を用いた物質生産や、創薬スクリーニングへの応用も可能だと考えています。将来的に受託研究のような形も夢ではないと思っています。現在はバイオコンビを広く知ってもらい、使用したいという研究者の方がいらっしゃれば、ぜひ一緒にやりたいと考えています。今回の事例紹介によって、一人でも多くの方が我々の研究やバイオコンビにご興味を持っていただけることを期待しています。

藻類研究、バイオコンビ等に関する問合せはこちら

株式会社デンソー

マテリアル研究部 バイオ材料課
(兼)社会ソリューション事業推進部 バイオ事業開発課
担当課長  久野 斉

拠点 先端技術研究所

Email: hitoshi.kuno.j7c(アットマーク)jp.denso.com
※(アットマーク)を @ に置き換えてご連絡ください。

謝辞

当研究はNEDOプロジェクト「油分生産性の優れた微細藻類の育種・改良技術の研究開発」(11502302-0)および「高油脂生産微細藻類の大規模培養と回収および燃料化に関する研究開発」(13401508-0)、農水プロジェクト「微細藻類を利用した石油代替燃料等の製造技術の開発」の支援を受けました。また、KJ株を提供いただいた京都大学の宮下教授、研究遂行にあたりご指導ご助言戴いた中央大学の原山教授はじめ研究室の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。

参照文献

1)Imamura S, Hagiwara D, Suzuki F, Kurano N, Harayama S.
Genetic transformation of Pseudochoricystis ellipsoidea, an aliphatic hydrocarbonproducing green alga. J Gen Appl Microbiol. 2012;58:1‒10.

2)Yoshimitsu Y, Abe J, Harayama S.
Cas9-guide RNA ribonucleoprotein-induced genome editing in the industrial green alga Coccomyxa sp. strain KJ.
Biotechnol Biofuels. 2018;11.

3)Kasai Y, Oshima K, Ikeda F, Abe J, Yoshimitsu Y, Harayama S.
Construction of a self-cloning system in the unicellular green alga Pseudochoricystis ellipsoidea. Biotechnol Biofuels. 2015;8.

4)Kasai Y, Matsuzaki K, Ikeda F, Yoshimitsu Y, Harayama S.
Precise excision of a selectable marker gene in transgenic Coccomyxa strains by the piggyBac transposase. Algal Res. 2017;27.

5)Takahashi K, Ide Y, Hayakawa J, Yoshimitsu Y, Fukuhara I, Abe J, et al.
Lipid productivity in TALEN-induced starchless mutants of the unicellular green alga Coccomyxa sp. strain Obi. Algal Res. 2018;32.

使用機器

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