• フローサイトメーター

September 2017

動脈硬化の免疫的な機序から心血管疾患の治療と予後を研究
― マルチカラーフローサイトメーターで研究を加速 ―

東京女子医科大学 循環器内科
講師 佐藤 加代子 先生

動脈硬化の免疫学的な機序から心疾患と免疫細胞との関係を解明し、その臨床と免疫学をつなげる研究についてお話しを伺いました。

東京女子医科大学
東京女子医科大学 循環器内科  講師 佐藤 加代子 先生

研究員募集広告からMayo Clinicに研究留学

動脈硬化の免疫学的な機序について研究を始めたきっかけは、東京医科歯科大学 歯学部 細胞機能制御学教室の森田育男先生(当時 准教授、現 お茶の水女子大学 理事・副学長)のところへご縁があって留学し、血管の動脈硬化の研究を始めたことです。当時は、血管平滑筋細胞や血管内皮細胞の研究をしていました。その後、Mayo ClinicのDr.Weyand教授の「急性冠症候群の免疫学的な機序を解明する循環器医を求む」という「Cell」か「Nature Medicine」に掲載された募集広告を見て、メールで応募しました。同時にTufts大学へも応募して、運よく両方からofferをいただきました。当時、東京女子医科大学で心移植を始めていたことや、恩師である東京女子医科大学 名誉教授、元副学長・第一生理学教授 橋本葉子先生にご相談し、世界的に臨床・研究で評価の高いMayo Clinicに決めました。ミネソタは「アメリカの冷蔵庫」と言われるほど寒く何もない田舎なので、「遊ばなくて研究に専念できるかな」とも思いました。

東京女子医科大学 循環器内科  講師 佐藤 加代子 先生

臨床研究の始まり

Mayo Clinicは心移植も多く行われ、循環器でも非常に有名な病院ですが、そこのRheumatology Immunologyの循環器研究チームでT細胞の急性冠症候群にかかわる研究を行いました。ボスのDr.Weyand教授は、リウマチ科の免疫学者ですが、また臨床では、全米で診断のつかない患者が最後に行きつくような大血管炎の大家でもあります。当時、大血管炎のメカニズムがCD4 T細胞に関係していて、リウマチ患者は心疾患でなくなることが多く、そのメカニズムが急性冠症候群と非常に似ていること、例えば、CD4+CD28のSenescenceなフェノタイプのT細胞がどちらの疾患にも多いということがわかってきていました。

Mayo Clinicで研究している中で、TRAIL+CD4+T細胞は、細胞障害性が強く、この細胞のターゲットとなる血管平滑筋細胞がアポトーシスを起こすと、冠動脈の粥腫(プラーク)が非常に不安定になり急性冠症候群になるという論文をJEMに掲載され、Nature Immunologyにもハイライトされました。帰国してからも、この延長の臨床につながる仕事をしています。

東京女子医科大学 循環器内科  講師 佐藤 加代子 先生

マルチカラーフローサイトメトリーの有用性

現在、大学病院での臨床、研究、後進の指導、学生教育、そして循環器系学会の評議員や理事、公的仕事など非常に忙しくしています。その中で、大学院生、研究員、他科の臨床の先生、また他施設と共同研究を行っています。しかし、臨床医としての外来もあるので、なかなか実験の時間が取れない中、CytoFLEXは同時に多くのマーカーを測定でき、操作も簡単なので非常に助かっています。ヒトの検体は非常に貴重で、全血で10mL程度より単離できる細胞数には限りがあり、マルチカラーで染色しないと細胞数が不足してしまいます。以前は、ほかの3カラーの機器で実験していましたが、それでは解析に限界がありました。マルチカラーの良い点は、検体量、測定本数が少なくなるだけではなく、同じ細胞で、どのように重要なモレキュラーが発現しているか、いないのか、といった細胞のフェノタイプ解析に非常に有用です。例えば、Th1細胞の性質解析としてCD4、INFγにさらにいくつかのマーカーを加えて、エフェクターメモリー、セントラルメモリー、活性化、接着分子などを同時に測定できます。この点、CytoFLEXのマルチカラーの機能は実験の助けになっています。操作も簡便である点や、とりあえず計測し、後から条件を整えて解析できる点も助かっています。

東京女子医科大学 循環器内科  講師 佐藤 加代子 先生

研究の5つの柱

現在は、大きく5つのテーマを研究しています。


循環器疾患として最も重要である心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死を含む急性冠症候群患者の急性期CD4+T細胞のTRAIL発現は亢進しており、血管平滑筋や血管内皮細胞にアポトーシスを誘導し、冠動脈プラークを不安定にしています。しかし、慢性期になるとTRAIL発現が低下し細胞障害性も改善します。このメカニズムと臨床状態を研究しています。通常、不安定狭心症は心筋梗塞を発症する前段階のため、心電図と問診で診断するのですが、免疫学的な診断を加味することで、動脈硬化のプラークが不安定になっているかどうかを見分ける一助になればと思っています。例えば、不安定なプラークを持っている患者さん -英語では、vulnerable patientとかunstable patientと言うのですが- そのような患者さんをstableな状態にすることで、入院が不要になり、予後を良くし、さらには医療費も抑えることが可能となります。


2つ目として、急性冠症候群などのメカニズムとしての動脈硬化について研究しています。動脈硬化は慢性炎症なので、獲得免疫の要であるT細胞が大きく関与しています。動脈硬化では血管が硬くなり、血管内膜にプラークができます。このプラークにT細胞(Th17、Th1など)やマクロファージ、好中球が多く浸潤し、その後、プラーク破綻や糜爛が起こり、血管内に血栓が詰まって不安定狭心症や心筋梗塞になります。また、プラークに浸潤しているTreg細胞の抑制が効かなくなっていることも知られています。


3つ目としては、女子医大ということもあり、更年期と動脈硬化の関係を研究しています。女性は、閉経するまで女性ホルモンであるエストロゲンが多く、動脈硬化進展はあまり認められないのですが、閉経すると、15年ほどで急激に動脈硬化が進みます。そのメカニズムにT細胞の性周期に応じた接着分子の発現変化や、細胞障害性の変化が関与しており研究しています。

1つ目から3つ目のテーマでは遺伝子改変マウスによる動物実験によって、循環器疾患に関与するT細胞活性化を抑えることが可能か、降圧剤の一種であるレニン-アンジオテンシン系にかかわる薬、糖尿病に関連するDPP4阻害薬、脂質低下薬などをマウスに投与し、T細胞の活性化やリン酸化の状態、血管、心臓、腎臓などを評価し有効性の高い治療の研究をしています。


4つ目は心不全に関する研究です。高齢化に伴い死因として心不全は非常に重要ですが、心不全の原因として虚血性心疾患や心筋症が多く認められています。心不全の予後を決める要因として、T細胞から産生されるサイトカインや細胞障害性の強いT細胞の関与が考えられ、これらのT細胞がどのようなメカニズムでセントラルメモリーからエフェクターメモリー、さらにエフェクターT 細胞に分化していくのかを研究しています。

これらの研究におけるT 細胞解析にも、フローサイトメーターが非常に役立っています。


5つ目として、今、臨床的に力をいれて行っているのは、難病である家族性高コレステロール血症(FH:Familial hypercholesterolemia)です。FHは、LDLコレステロールレセプター、PSCK-9、APOB、ARH遺伝子異常により起こり、動脈硬化進展が非常に早く、若年発症の心血管疾患のために余命が短い疾患です。現在は遺伝子診断は保険診療は認可されておらず、限られた施設でのみになります。当院でも遺伝子検査により確定診断した例も多く、昨年10月に認可された循環器領域初の抗体薬であるPCSK-9阻害剤が非常に有効です。通常の脂質治療薬では改善しないFHも早期診断による治療介入が可能となり、子供の段階で治療を始めることも可能となりました。これからFH患者の動脈硬化進展の免疫機序について研究を進めていきたいと思っています。

循環器と免疫学

今はまだ、循環器領域では免疫学を本格的に行っている先生方が少ない状況です。これから循環器領域と免疫学がタッグを組んで循環器疾患の克服につながることを願っています。そして、循環器の臨床的な視点から、免疫研究を行っていきたい若手の研究者が、もっと研究室に来てくれたらと期待しています。

東京女子医科大学 循環器内科  講師 佐藤 加代子 先生

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